君の心に触れる時

限界



春香は病院での生活に耐えられなくなっていた。毎日のように

「手術を受けろ」
と言われ、彼女の心は次第に重くなっていった。
最初は蓮の言葉を信じようとしたが、どうしても心の中に膨れ上がる不安や恐怖を抑えきれなかった。

「もう、嫌だ。」

その日も、春香はベッドで目を閉じながら、心の中で繰り返し思っていた。
手術を受けることが、こんなにも怖く感じるなんて。彼女の中には、蓮の言葉に支えられながらも、やはり逃げたいという気持ちが強くなっていた。

病室の窓から見える空は曇りがちで、まるで春香の心を映しているかのようだ。ふと、彼女は決心を固めた。

「逃げるしかない。」

その瞬間、春香はそっと病室を抜け出すことを決めた。
静かに歩きながら、彼女は誰にも気づかれないように病院の廊下を進んだ。
看護師が巡回していない時間を狙い、足音を立てないように慎重に動く。
病院内の静けさが、むしろ彼女を不安にさせるが、それでも春香は目的を果たすために進むしかなかった。


ついに裏口まで辿り着くと、春香は小さく息をつき、外の空気を吸った。
冷たい風が頬を撫で、彼女は少しだけ安堵の息を漏らす。しかし、この決断が間違っているのかもしれないという迷いも心の中で感じていたが、すでに後戻りはできない。

「自由だ。」

そう呟きながら、春香は病院の外に出て、一歩を踏み出す。しかし、その時、病院の中で蓮が急ぎ足で歩いていた。
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