君の心に触れる時
「俺は…何もできない。」
蓮は自分を責める思いでいっぱいだった。これまで何度も春香の命を救いたかった。それでも何もできないことが、どうしても許せなかった。
「春香…頼む、目を開けてくれ…!」
蓮の目から涙が溢れ、彼は必死にその涙をこらえようとする。だけど、春香の命は、音もなくどんどん遠ざかっていく。
そのとき、蓮の耳に智己の声が聞こえる。
「蓮!もう気づけ、春香が危ないんだ!」
智己の叫びに、蓮は我に返る。
「俺は…俺は医者だろ?!」
蓮はその瞬間、自分が医師であることを思い出す。だが、何もできなかった。
心臓が停止した状態でどうすることもできない自分が情けなかった。
智己が急いで春香に治療を加えていく中、蓮はただ立ち尽くす。その目は春香から目を離せなかった。
数分後、ようやく春香の息が少しずつ戻り、緊張が解けた。
蓮は春香の手を握りしめながら、今にも消えてしまいそうな命を必死に感じ取る。だが、心臓が完全に機能を失う一歩手前だった。
「お願いだから、お願いだ…」
その瞬間、蓮の頭に春香の笑顔が浮かぶ。
それが最後の最後の支えとなった。春香が生きていた証として、その笑顔だけが今も心に残る。