ダチュラ

プロローグ

「ちょっと〜、そこのあんたぁ……ちょろちょろしないでここに座りなさいよ〜……」



大手化粧品メーカーの新入社員歓迎会の席で、酒にめっぽう弱い新卒の女子社員が誰彼構わず絡みこの女子社員からみんなそそくさと逃げて行く中、仕事の都合で遅れて席に着く男性社員がそんな状況とは知らずに運悪く酒乱の彼女のターゲットにされてしまった。



同期入社の女子社員が必死で酒乱社員をなだめようとする。



「ちょっと!もういい加減にしなさいよ〜!誰!?この子にお酒飲ませたのは〜……」



「ごめ〜ん、俺で〜す……まさかこんなに酒癖悪いとは知らなくって……」



そう謝っているのは酒乱社員と同期入社の男だった。

今絡まれている男性社員は困惑してはいるものの、落ち着いた大人の冷静な態度でこの酒乱女子社員の相手をしている。



「いい~?あんたみたいなちょっと面の良い男なんて世の中いくらでも居るのよ!そんなものは何の魅力にもならないの〜。わかる〜?」



酒乱女子社員の目は完全に据わっていて、言葉は呂律ろれつが回らず、相手に対しての無礼など微塵も感じることの出来ない状況である。

しかし絡まれている男性はそれを全く意に介さないといった態度で彼女の目を見て聞いている。

逆にそれを心配した同期女子社員の方が必死に男性に謝り続け、酒乱社員を彼から引き離そうと後ろから羽交い絞めの体勢に入ろうとするも、酒の力の方があきらかに勝ってそれをはねのけてしまう。

酒乱社員の横柄な態度はどんどんエスカレートしていき、男性の頬ほおを両手で押さえ、自分のおでこと男性のおでこを突き合わせてゼロ距離で罵声を浴びせ出した。



「もう男なんて懲り懲りなのよ〜!みんな私をいいように利用してさぁ〜……どうせあんたも女を道具みたいに扱ってゴミみたいに捨てるんでしょ?男なんてどいつもこいつも自分のことしか考えない、女を奴隷のようにしか思わないエゴい人種なのよ……」



そこまで言うと、周りの制止を振り切りながら暴走を続けていた酒乱女子社員が急にスイッチが切れたかの様に男性の頬を押さえていた手がズルズルと滑り落ちていき、そのまま体勢が前に崩れ男性のあぐらをかいている膝下へ頭が落ちた。

膝枕状態になった彼女を見下ろす男性は身動きが取れず、同期の女子社員と男子社員達がその重たい酒乱社員の身体を何とか持ち上げて引き離し、数人掛かりで涼しい広い場所へと移動させた。



この騒動の一部始終をある女性社員がこの場に居合わせず何も知らなかった事、そしてこの不幸にも酒乱女子社員に絡まれた男性の周りには特別親しい仲間など居なかったので、この酒乱事件が大ごとにならずに済んだこと、それが彼女にとって不幸中の幸いであった。
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