ダチュラ
エピソード1 推し投票
女子社員「さぁさぁ来ました!手に汗握る全男性社員推し投票!!!はいはい皆さん、自分の推しを記入したら一階フロントの投票箱に投函しといて下さいね!」
ドアを勢いよく開けるなり、そう言って女子社員全員に投票用紙なる紙切れをせっせと配るお祭り好きな女子がこのマーケティング部2課の部屋で縦横無尽に走り回る。浮足立ってあちこちの机の角に足をぶつける様は、この女子社員がいかにこのイベントに注力しているかが伺い知れる。そして女子社員以上に期待感を漲(みなぎ)らせる男性社員達がその女子社員の姿を目で追っていた。そう、誰もが一票くらいは自分にくれるのではという淡い期待を胸に募らせているのだ。
実はこの国内有数の化粧品メーカー“フローラルノート”本社の女性社員約200人が年に2回推しの男性社員投票というお祭り騒ぎのイベントに半ば強制参加という形で投票を余儀なくされるわけだが、なぜこのようなイベントが社内でまかり通るのかというと、実に社長が女性という部分に大きく起因されている。
このお祭り騒ぎは6月と12月の2回に分けられており、不動のダントツ一位の票を集める男が正に女社長の息子であり、長身イケメンで女性に対して誰にでも優しい典型的なモテ男、神宮寺隼人であった。
しかしこの年、神宮寺隼人のライバルとなる男の出現により、この不動の票は前代未聞の大荒れを引き起こすことになる。
今年入社した新入社員の須崎蒼真、彼こそが波乱を巻き起こす張本人なわけだが、蒼真が面白そうにその投票用紙を運ぶ女子社員に人懐こく話しかける。
蒼真「へぇ!何ですかそれ!!推し投票!?」
入社したばかりの蒼真には、このイベントが如何に男女問わずマンネリ化した日々に潤いを与える程の刺激があるかなどは知る由もない。
投票用紙を配っていた女子社員が聞き慣れないその甘い声に振り返るとハッと息を呑んだ。
うっ…うわぁ〜…何この子!?……めちゃくちゃカッコ良いじゃん!!こんなの聞いて無いよ……なんて名前だろう…新入社員!?これはひょっとすると隼人様を喰ってしまわれるかも。私も今度ばかりは悩むなぁ…うーん…でも今まで私が隼人様オンリーと言い続けた一途な想いを簡単に覆したら、隼人様ファンクラブの奴らからどんな言われ方するだろうか……
女子社員「えっ…えーと?あなたぁ…見かけない顔だけど今年の新入社員?」
身振り手振りがオーバーリアクションになり、動揺していることは誰の目にも明らかだった。
蒼真「あっ…どうもはじめまして。研修明けてこのマーケティング部2課に配属になりました須崎蒼真と申します。以後お見知り置きを」
女子社員「あ…あら…そう…須崎君ね…よ…宜しく〜」
ヤッば!礼儀正しいし超イケメンスマイルで背も高い……めっちゃ美味しそう〜!!
この女子社員の中に本命を裏切る勢いで芽生えた恋心は、彼女の頭の中から神宮寺隼人という存在を消し去ることに罪悪感すら麻痺していくほどの衝撃を与えている。
そして蒼真の噂は広報番長とも言うべき女子社員の働きによってあっという間に社内全体にも知れ渡って行った。
休憩時間中、蒼真と同じマーケティング部2課で入社4年目の松浦由依は社内を歩く度に耳に入ってくるイケメン新入社員の噂話に、同期入社であり学生時代からの友人でもある早坂友美と共に溜め息をつきながら社内のトイレへと向かって歩いていた。
由依「全く…世の中の女ってみんなミーハーなイケメン好きよね〜……イケメンなんて顔が良いってだけで他に良い所なんて大して無いのにねぇ……」
友美「由依が言うと説得力あるよね。何せ由依は男運無いからさぁ、昔から都合の良い女扱いばかり受けてダメンズに心ボロボロにされて、良い想い出って少ないもんねぇ……」
由依「そんな身も蓋もないこと言わないでよ」
友美「でもさ、由依にも問題はあるんだよ?」
由依「え!?」
友美「由依は、気が弱いから何でも男に押し切られてYesマンになるから都合良く利用されちゃうの!時には嫌われるの覚悟でも頑かたくなにNOと言える勇気も必要なのよ」
由依「そりゃあわかってはいるんだけどさぁ……」
由依が口を尖とがらせている理由は友美には十分理解出来ている。由依には強気に出られない過去のトラウマがあるからだ。初恋の人とのトラウマ…それが由依を未だに縛り付けている。
友美「まぁ、由依にもいずれ由依を心から理解してくれる優しい彼が現れるよ」
由依「友美は良いよね…優しい彼がいつも側に居てくれるから」
友美「そう言うけどさぁ、誰にでも長所短所はあるもんよ〜。彼だってけっこう変なところで細かい所とかあってけっこう気を遣ったりしてるんだから」
由依「それでも真面目で優しい彼じゃん。そんなの嫌味にしか聞こえないよ…」
これほど悲観的な言葉しか出ない由依の恋愛経験の中には、確かに彼女に同情する程のダメンズのハズレばかりを引いてきた過去があることは否めない事実であった。
ドアを勢いよく開けるなり、そう言って女子社員全員に投票用紙なる紙切れをせっせと配るお祭り好きな女子がこのマーケティング部2課の部屋で縦横無尽に走り回る。浮足立ってあちこちの机の角に足をぶつける様は、この女子社員がいかにこのイベントに注力しているかが伺い知れる。そして女子社員以上に期待感を漲(みなぎ)らせる男性社員達がその女子社員の姿を目で追っていた。そう、誰もが一票くらいは自分にくれるのではという淡い期待を胸に募らせているのだ。
実はこの国内有数の化粧品メーカー“フローラルノート”本社の女性社員約200人が年に2回推しの男性社員投票というお祭り騒ぎのイベントに半ば強制参加という形で投票を余儀なくされるわけだが、なぜこのようなイベントが社内でまかり通るのかというと、実に社長が女性という部分に大きく起因されている。
このお祭り騒ぎは6月と12月の2回に分けられており、不動のダントツ一位の票を集める男が正に女社長の息子であり、長身イケメンで女性に対して誰にでも優しい典型的なモテ男、神宮寺隼人であった。
しかしこの年、神宮寺隼人のライバルとなる男の出現により、この不動の票は前代未聞の大荒れを引き起こすことになる。
今年入社した新入社員の須崎蒼真、彼こそが波乱を巻き起こす張本人なわけだが、蒼真が面白そうにその投票用紙を運ぶ女子社員に人懐こく話しかける。
蒼真「へぇ!何ですかそれ!!推し投票!?」
入社したばかりの蒼真には、このイベントが如何に男女問わずマンネリ化した日々に潤いを与える程の刺激があるかなどは知る由もない。
投票用紙を配っていた女子社員が聞き慣れないその甘い声に振り返るとハッと息を呑んだ。
うっ…うわぁ〜…何この子!?……めちゃくちゃカッコ良いじゃん!!こんなの聞いて無いよ……なんて名前だろう…新入社員!?これはひょっとすると隼人様を喰ってしまわれるかも。私も今度ばかりは悩むなぁ…うーん…でも今まで私が隼人様オンリーと言い続けた一途な想いを簡単に覆したら、隼人様ファンクラブの奴らからどんな言われ方するだろうか……
女子社員「えっ…えーと?あなたぁ…見かけない顔だけど今年の新入社員?」
身振り手振りがオーバーリアクションになり、動揺していることは誰の目にも明らかだった。
蒼真「あっ…どうもはじめまして。研修明けてこのマーケティング部2課に配属になりました須崎蒼真と申します。以後お見知り置きを」
女子社員「あ…あら…そう…須崎君ね…よ…宜しく〜」
ヤッば!礼儀正しいし超イケメンスマイルで背も高い……めっちゃ美味しそう〜!!
この女子社員の中に本命を裏切る勢いで芽生えた恋心は、彼女の頭の中から神宮寺隼人という存在を消し去ることに罪悪感すら麻痺していくほどの衝撃を与えている。
そして蒼真の噂は広報番長とも言うべき女子社員の働きによってあっという間に社内全体にも知れ渡って行った。
休憩時間中、蒼真と同じマーケティング部2課で入社4年目の松浦由依は社内を歩く度に耳に入ってくるイケメン新入社員の噂話に、同期入社であり学生時代からの友人でもある早坂友美と共に溜め息をつきながら社内のトイレへと向かって歩いていた。
由依「全く…世の中の女ってみんなミーハーなイケメン好きよね〜……イケメンなんて顔が良いってだけで他に良い所なんて大して無いのにねぇ……」
友美「由依が言うと説得力あるよね。何せ由依は男運無いからさぁ、昔から都合の良い女扱いばかり受けてダメンズに心ボロボロにされて、良い想い出って少ないもんねぇ……」
由依「そんな身も蓋もないこと言わないでよ」
友美「でもさ、由依にも問題はあるんだよ?」
由依「え!?」
友美「由依は、気が弱いから何でも男に押し切られてYesマンになるから都合良く利用されちゃうの!時には嫌われるの覚悟でも頑かたくなにNOと言える勇気も必要なのよ」
由依「そりゃあわかってはいるんだけどさぁ……」
由依が口を尖とがらせている理由は友美には十分理解出来ている。由依には強気に出られない過去のトラウマがあるからだ。初恋の人とのトラウマ…それが由依を未だに縛り付けている。
友美「まぁ、由依にもいずれ由依を心から理解してくれる優しい彼が現れるよ」
由依「友美は良いよね…優しい彼がいつも側に居てくれるから」
友美「そう言うけどさぁ、誰にでも長所短所はあるもんよ〜。彼だってけっこう変なところで細かい所とかあってけっこう気を遣ったりしてるんだから」
由依「それでも真面目で優しい彼じゃん。そんなの嫌味にしか聞こえないよ…」
これほど悲観的な言葉しか出ない由依の恋愛経験の中には、確かに彼女に同情する程のダメンズのハズレばかりを引いてきた過去があることは否めない事実であった。

