野いちご源氏物語 一〇 賢木(さかき)
 桐壺(きりつぼ)(いん)一周忌(いっしゅうき)の日は大雪だった。源氏(げんじ)(きみ)中宮(ちゅうぐう)に手紙をお送りになる。
「もう一年でございますね。いつになったら亡き(ちち)院にお会いできるだろうかと、悲しみに暮れております」
 中宮も院を思い出して悲しんでいらっしゃったから、返事をお書きになった。
「つらい一年でした。今日は一周忌ですから、院のご気配(けはい)を感じられるのではと心を(なぐさ)めております」
 特別に美しく書かれた手紙というわけではないけれど、源氏の君には()(だか)く感じられる。ご筆跡(ひっせき)は現代風ではなくてめずらしい系統(けいとう)だった。他の人の字とは違う魅力(みりょく)がある。
 今日だけは中宮への恋心を忘れて、桐壺院のためにお(きょう)をお読みになる。
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