憧れの上司は実は猫かぶり!?~ウブな部下は俺様御曹司に溺愛される~
龍志とプライベートでも付き合うようになって、なにも気づいていなかったのかといえば嘘になる。
ストーカー男、市崎に襲われたあと、もう二度とあの男に手を出させないようにちょっとした考えがあると言った彼に、高校時代からの友人だという弁護士の笹西さんは本当にいいのかと心配そうだった。
この件で手を打ったと彼が兄に説明したときも、兄も本当にこれでいいのかと言い、龍志を憐れんでいるようだった。
それに新作発表会のときの、ルナさんの言い草。
あれはまるで龍志は彼女と同じ上流家庭の人間とでもいうようだった。
ずっと彼は私と同じごく普通の一般庶民だと思っていたし、周りの人間もそう思っている。
けれど実は違うんだろうか。

「……わるい。
今は言えない」

苦しそうに彼が絞り出す。

「今はってことは、いつか話してくれるんですよね?」

きっとその事情は私に明かされることはないのだろうと薄々気づいていた。
それでも精一杯、彼に微笑みかける。

「そう、だな」

ぎこちない笑顔を彼が作る。
それを見て胸がバリバリと裂かれたかのように痛んだ。

「じゃあ、今は聞きません」

ぎゅっと彼の手を握り返す。

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