憧れの上司は実は猫かぶり!?~ウブな部下は俺様御曹司に溺愛される~
私ひとりだけを乗せてエレベーターが上昇を始め、ようやく息をついた。

「……いい加減にしてほしい」

自分の部屋に帰り着き、キッチンで水をくんでごくごくと勢いよく、ひと息に飲み干す。
少し前から帰り道、誰かにつけられるようになった。
一度や二度くらいなら、たまたま同じ方向の人が一緒になっただけだとも思えるが、定時で帰ろうと残業で遅くなろうと常に後ろに人の気配を感じるのだ。
さらに。

「はぁーっ」

放り出したバッグから飛び出た、今朝回収した配達物を見てため息が漏れる。
その中から白の封筒を摘まみ出した。
表には【井ノ上七星様】と私の名前が印刷してある。
しかしそれだけで、切手はおろか、住所すら記載がない。
直接、マンションのポストに投函したとしか思えないそれは、帰り道で人の気配を感じるようになったのと同時に届くようになった。

「けっこう溜まったな……」

封も切らず、それを紙袋に突っ込む。
中には同じ封筒がぎっしりと詰まっていた。
最初のうちはなにが書いてあるのか確認していたが、すぐに気持ち悪くなってやめた。
< 8 / 411 >

この作品をシェア

pagetop