拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~ 【改稿版】
* * * *
――愛美はその後、ショッピングのついでにとりあえずATMで百万円を引き出し、純也さんに「明日、会いたい」とメッセージを送信した。
そして、翌日の日曜の午後――。純也さんはいつものとおり、自分の車を運転して横浜まで来てくれた。
「やあ、愛美ちゃん。待った?」
「ううん、わたしも少し前に来たところ。ゴメンね、せっかくのお休みの日に呼び出しちゃって」
「いや、愛美ちゃんにならいつ呼ばれても大歓迎だよ」
……なんていう会話をしながら、愛美は車の助手席に乗り込んだのだけれど――。
「あのね、純也さん。今日、純也さんを呼び出したのは、これを受け取ってほしくて」
愛美はトートバッグから現金百万円の入った封筒を取り出して、純也さんに押し付けた。
「……ん? これは?」
「あなたに今まで援助してもらった分のお金の一部です。百万円入ってます。昨日、短編集の印税が振り込まれてたから」
「…………えっ、ちょっと待ってくれ! 俺は君にお金を援助した憶えなんか……、あ」
純也さんが気づいたようなので、愛美は「うん」と大きく頷いてから打ち明けた。今まで彼に話していなかった本当のことを。
「今までずっと言わなくてごめんなさい。わたし、実はだいぶ前から分かってたの。〝あしながおじさん〟の正体があなただってこと」
「……やっぱり、そうだったのか。そうじゃないかとは薄々感じてたけど」
愛美のカミングアウトに、純也さんは驚いた様子がなかった。
「実はわたしね、冬に〈わかば園〉へ行った時に、聡美園長からその話も聞いてたの。でも純也さん、いつからそう感じてたの?」
「二年前の秋……くらいだったかな。君からの手紙の文体が急に砕けた感じになって、それで『もしかしたら』って気づいたんだ。でも、君からの手紙が急に来なくなったわけじゃなかったから、気のせいだろうって自分に言い聞かせてきたんだけど。……じゃあ、その頃からすでに知ってた?」
「うん。……でもね、それをずっと言わなかったのは、純也さんがいつか打ち明けてくれるのを待ってたから。純也さん、わたしと付き合い始めてからずっと苦しんでたんじゃない? 保護者としての自分と、恋人としての自分の間で板挟みになって」
「それは……うん、そうだな。俺の方こそ、いっそのこと本当のことをぶっちゃけてしまえたらどれだけ楽だろうって、何度思ったか分からない。君が僕の保護下から外れた今だからこそ、それができたんだけど」
純也さんの本当の気持ちを知れた今、愛美にはプロポーズを断る理由はなくなったのかもしれない。けれど……。
「――あのね、純也さん。こないだのプロポーズの返事をさせて下さい」
「うん?」
「ごめんなさい。わたし、あなたとは結婚してもうまくやっていける自信がありません。だから……お断りさせて下さい。ホントにごめんなさい」
「え…………?」
思いも寄らない愛美からの返事に、純也さんは茫然としていた。