婚約者に悪役令嬢になってほしいと言われたので
◇とりあえず理由を伺って宜しいでしょうか
悪役令嬢とは、読んで字の如く物語の中などで悪役である令嬢のことである。その多くが高位貴族であり、婚約者に好かれておらず、性根もあまりよろしくないというのが定石らしい。
見た目は派手派手しいものから清楚なもの、はたまた非の打ち所がない淑女だったり地味な見た目のものだったりと種類も様々で、ただ性格は苛烈だったり陰険だったりと性悪なものが多い。あとは傲慢は通常装備なのだとか。
確か最初の火付け役では、身分差のある恋人同士の邪魔をする形で悪役令嬢というものが登場し、その当て馬振りが痛快だということと、恋人たちの紆余曲折が面白いということで人気が出たのだとか。
そこから色々と派生していき、巷ではそんな悪役令嬢が出てくる恋物語が話題となっている。
さて、なぜいきなり悪役令嬢という役柄の話になったのかここで少し振り返りたいと思う。
初めに言っておくと、今日という日は特に変わったこともなくいつも通りの日常だった。いつものように起床していつものように支度を整え、貴族令息や令嬢が通う学園に向かい、波風立たずに授業もこなした。
しかして遡ること数時間前、幼い時からの婚約者である我が国の第三王子であるロアン・レイ・ガーディア殿下からお呼び出しがかかった。それ自体は特に珍しいことでもないので諸々を済ませて生徒会室に赴き、なんの用事だろうかとお茶などを入れて向かい合って座る。
そしてこの台詞である。
「私のために悪役令嬢になってほしい」
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