婚約者に悪役令嬢になってほしいと言われたので





思わず目が点になってしまったわたしを誰が責められようか。むしろ淑女の仮面を一瞬で付け直したことを褒めてほしいぐらいだ。


全くと言っていいほどに話が読めないけれど、真剣な表情をしている婚約者とはこれでもそこそこ長い付き合いなのでふざけているわけではないことは確信する。


しかしわからない。いや、言っている意味はわかるけれど意図がわからない。王家と縁続きになるのだからとそこそこ流行にも目を配っているので巷で流行っている悪役令嬢ブームも知ってはいるけれど。


小説を参考に考えるともしかして殿下に他に好いた方ができたのでわたしの有責で婚約破棄したいということかしら。お互い良好な関係を築けていたはずだけれど、わたしの勘違いだったのだろうか。


いやいや、そもそも殿下はそんなことをするような頭の悪い方ではなかったはず。勿論恋愛で脳内お花畑になっている可能性も極々わずかにあるけれど、積み重ねてきた信頼がそれを考えることを拒否する。



「………………とりあえず理由を伺って宜しいでしょうか?」


「勿論だ。我が婚約者、トリシャ・リエ・クレイン侯爵令嬢」



ニッコリと満足そうに笑う姿にやれやれと思いながら話の続きを待つ。


その前に少し長い話になるだろうからと先にお茶を勧めてくれたことにお礼を返しながら遠慮なくお茶菓子も摘まむ。まぁ用意したのわたしですが。


その間に何やら資料の準備などをしているようなのでのんびりとお茶を楽しみながらこの人はやはり根っからの王族なのだなぁと改めて思う。


さっきのも唐突な話題に対してのわたしの反応を見ていたのだろうし。こういう折々で人を試すようなところが他の令嬢方達からしたら信頼されていない、とか気に食わない、とかで嫌がられてしまったのよねぇ。その他はハイスペックなのに。



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