婚約者に悪役令嬢になってほしいと言われたので



わたしだって似合っていないと自覚はあるもこう見えて花も恥じらう女子の1人。しかも貞淑たれとこの国でもトップクラスの淑女教育を受けた1人でもある。


そんなわたしがあの、あれですよ。衆人観衆がいる中で初めての口づけを……しかも深い方を……受けて冷静でいろという方が無理な話だと思うのですよ。


不意にあの時のことを思い出してしまって顔を赤くしてしまうのだからもう少ししないと外に出られないわ…流石に1人で顔を火照らして挙動不審にしている姿は誰だろうと見せられない。


というわけで家に引き篭もりながら今のわたしにもできる勉学や刺繍、読書に費やしているのだけれど、少し時間を持て余し気味になってきた。というか率直に言えば飽きてきてしまった。


今も刺していたハンカチの刺繍をそばにあったテーブルに置いて休憩のために背凭れに寄りかかりながら目を閉じる。お茶の準備をしてもらい一服するとぼんやりと窓の外を見上げた。


目に優しい淡い青空に日の光が外を照らしている。花は咲き乱れて風に揺れ、微かな香りまでこちらに漂ってくるようだ。うとうとと微睡みながらも小鳥が自由に羽ばたいて空に飛び立っていく姿に懐かしく愛おしい記憶が浮かんでくる。




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