婚約者に悪役令嬢になってほしいと言われたので



これってある意味で国家機密と同じぐらいのものだと思うのですけれど。だって王家が主導で秘密裏に調べているわけだし。他の高位貴族でもなく王家がである。その重要性は押して測るべし。


それを一応は婚約者とは言え王家に連なってもいない人間に伝えるのはちょっとおかしいのでは。わたしの立場なんて誰かとすげ替えようとすれば簡単に変えられるぐらいのものだし。



「私がいきなり他の女生徒にうつつを抜かせば君なら天変地異の前触れぐらいに訝しく思うはずだ。ならば最初から理由を説明して協力を仰ぐ方が合理的だ」


「まぁ、殿下らしいこと」


「………それに明かさずに決行した場合、芝居だと言ってもそのまま婚約破棄まで直行する可能性が高いからな。それは困る」


「まぁ、ふふふ………」


「………そこは否定するところだろう」



確かに何も言われないままならばそのまま婚約破棄にも応じていたかもしれないなと思えば笑って誤魔化すしかなかった。



「兎に角、そういうわけだ。この小説を参考に、私が君以外の女性と馴れ馴れしく話したり触れ合ったりしていた時は無遠慮に注意してほしい」


「役割は理解しましたわ。ですが、殿下ご自身は大丈夫なのですか?」



その問題となっている薬物がどういうものなのかわからない。空気からも摂取されるのか、飲食物に混ぜられる危険もあれば中には皮膚から吸収されるものもあるという。


そんな未だ得体の知れない危険物を盛られる可能性がある立場にわざわざ自らを置くなんて。陛下達には話を通してあるとか言うけどそういう問題ではないだろうに。



「心配してくれるのか?」


「……殿下がわたしをどう思っているのかが如実にわかる台詞ですわね。当然でしょう?わたしは貴方の婚約者ですよ」


「そうか……」



嬉しそうに鳶色の瞳をキラキラさせる姿が年相応で思わずうっと視界を逸らす。外見がいいだけにこういう時の破壊力が普段の王子然としている姿と比べると倍増なのよね。


王族としての責任や立場を理解している真面目なところは好ましく思っているけれど、こうやってそのせいで無茶をするのはやめてほしいなぁと重いため息を吐いた。



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