【2/16 番外編追加】同期の姫は、あなどれない
ガシャンッ―――

グラスを置く手が滑って、次の瞬間、グラスがテーブルの上にひっくり返る激しい音が響いた。思いのほか大きい音で、一瞬で視線を集めてしまって恥ずかしい。

「うっわ!服にもかかっているぞ、大丈夫か?」

「大丈夫、ご、ごめん」

巽くんはグラスが割れてないことを確認しつつ、すぐに店員さんに追加のおしぼりを頼んでくれる。

「いや、俺こそごめん。そんなに動揺すると思わなくてさ」

そう苦笑しながら覗き込まれて、私は固まる。
やっぱり、聞き間違いじゃなかった。傍から見てそんなに態度に出ていたのだろうか。

「な、なんで……?」

「そりゃあまぁ……飲み会始まってからじーっと見てるなぁって気になってさ。それでさっき話振ったら逸らすから、もしかしてそうなのかなって。でも、他の人は気づいてないと思うから安心しな?」

おしぼりでテーブルを拭きながら、ぐるぐると考えるけれど、頭に浮かぶのは『どうしよう』ということばかりで、あまり思考が働かない。

「でもそっか、残念」

「え?」

「いや、何でもない」

「あのね?今の誰にも言わないでほしいんだけど……」

「ん?ああ言わないって!でも早瀬って新人のころから姫元と仲良かったし、意外と脈あるんじゃない?」

おそらく励ますつもりで言ってくれているのだろうけれど、何と答えたらいいのか分からない。変なことを口走ると自分の首を絞めそうで、私はただ曖昧に笑うしかない。

でも、どうやら付き合っていることがバレているわけではなさそうで、それだけはほっとした。とりあえずここは、私の片思いということで通しておこう。

「あ、ここ、まだ少し濡れてる」

そう言って、巽くんが服にこぼれたお茶を拭いてくれる。そのとき少し距離が近づいてふわっと何かが香った。香水だろうか。
きつくもなく甘すぎでもなく爽やかで、巽くんに合った匂いだなと思った。
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