【2/16 番外編追加】同期の姫は、あなどれない
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「で、俺のこと見すぎて片思いだと勘違いされて、挙げ句頑張れって応援されたって?」

「笑い事じゃないよ!もう」

いや、その展開は笑うだろう。
最寄駅へ向かう電車に乗りながら、俺は笑いを噛み殺していた。

「本当のこと言えばよかったのに。部署も違うんだから知られても問題ないだろ」

「そうだけど、プロジェクト終わるまではって決めたし……」

俺とゆきのの関係は会社では秘密にしている。
社内恋愛を禁止されているわけではないのだから別にバレてもいいと思っているが、プロジェクトメンバーに気を使わせたくないという、ゆきのの理由を尊重して受け入れた。

他人には柔軟なのに、自分が一度決めたことは曲げない。
ゆきのは見た目以上に強情なところがある。

だから、そのことに気を取られすぎて、見落としている。

巽が『ゆきのが俺のことを見ている』ことに気づいたのは、巽自身がずっとゆきのを見ていたからだということ。
巽の視線は初めからゆきのだけに向けられていた。どこかの誰かのような陰湿さはなくて、いっそ清々しいくらいの真っ直ぐさで。

そしてその視線に、俺が気づいていたことを。

「とりあえず、着いたら風呂だな」

ただの移り香とはいえ、他の男の香りをまとっているのはいい気分はしない。
それが自分の見える距離にいながらついたものなら、なおさらだ。

「お風呂は入るけど、そんなに匂うかな?」

自分では存外分からないものなのか、本人は自覚がない。
どうにも伝わっていないのは、解消すべき問題のひとつだ。

「あっ!」

「何?」

「泊まるっていっても、姫に貸せるような着替えとかない気がする」

言われてみれば、ゆきのの部屋にはまだ二回くらいしか行ったことがなく、そういうものは置いていなかった。どうしようか、と声をひそめて尋ねられたから、俺も小声で囁き返す。

「いいよ。どうせ着てる時間なんかないし」

これくらいの仕返しは許されるだろう。
冗談めかして言えば、一瞬ぽかんとしてからすぐに顔を真っ赤にした。
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