同期の姫は、あなどれない
 実際に四半期に一度の開発部の飲み会では四宮課長と姫が2人で話していたし、オフィスでもちょくちょく会話している姿を見かけるようになった。

 (誰とも付き合いがない姫のことが気になっていたから、勝手にホッとしたんだよね)

 それに四宮課長なら、変なウワサ話や陰口などで人を判断したりしないだろうし、姫が『信頼できる人』というのも頷ける。

 「………この流れで何でそうなるんだか」

 姫は缶コーヒーを一気に飲み干して、勢いよく缶をゴミ箱に捨てる。
 カランと缶が転がる軽い音と姫の言葉が重なって、よく聞き取れなかった。

 「え?今なんて?」

 「別に。結局どれを買うか決まったわけ?」

 急にその質問?
 話を180度変えられて、私は思わず面食らってしまう。

 「炭酸レモンを買いたかったんだけど」

 「炭酸レモンね」

 そう言うと、私があっ、と気づいて止めるよりも早くボタンが押された。ガコンッ。そして、出てきたペットボトルが差し出される。

 「え、いいよ、そんな」

 「そろそろ戻るわ」

 「ちょっと待って、お金取りにっ…て」

 呼び止める私の声も無視して、姫はリフレッシュルームを出て行った。
 私は手渡されたペットボトルを見つめる。

 (やっぱり、もったいない)

 他の人が思っているより、
 姫は冗談も言うし、笑うし、それに優しい。

 ペットボトルのキャップを開けて一口飲むと、口の中で炭酸が弾ける。
 爽やかなレモン味が口に広がって、また少し気持ちが浮上する。

 もう少し頑張れそう。

 そうだ、来月のゴールデンウィーク、私が賢吾に会いに行こう。
 電話やメッセージだけじゃどうしても伝わらないこともあるし、久しぶりに直接会えたらもやもやも解消されそうな気がする。

 うん、そうしよう。今度賢吾にも予定確認しなくちゃ。

 ペットボトルの蓋をキュっと閉める。
 私は気持ちを入れ替えて、自席へと戻った。


 
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