同期の姫は、あなどれない
 『かっこいいけど、何を考えているのかわからなくて怖いよね』

 それが同期の間での、姫への共通の印象だったように思う。
 よく言えばクール、悪く言えば表情が読めない。

 新人の時に一度同期全員で飲みに行ったのだけれど、趣味は何か?という話題に無表情で「人間観察」と答えて、本気か冗談かわからないトーンに周囲が引いていたことを思い出す。その一度きり以降、姫は同期飲みにも参加していない。

 それでもいつだったか『大手企業の社長の息子らしい』という噂が持ち上がって、一部の女子が色めきだって盛り上がっているなんて小耳に挟んだけれど、そんな話もいつの間にか立ち消えていた。

 「何?」

 「さっきみたいに、普段からもっと笑ったらいいのにと思って」

 「面白くもないのに笑えないだろ」

 クール、無表情、怖い。
 実は金持ちの息子でお高くとまっている。

 姫が周りから距離を取るほど、そんな嫌味や陰口が耳に入ってきた。

 そんな周囲の雑音を、姫は仕事で黙らせてきたように思う。
 姫の仕事ぶりは優秀で、実際にクライアントからの評価も高いと、第一課の課長が我が事のように自慢していたのを聞いたことがあった。

 ただ、仕事に必要なコミュニケーション以外は、ほとんど取っていないように見える。
 前にそのことを言ったら「省エネ志向なだけ」と、これまた本気か冗談かわからない返答ではぐらかされたけれど。

 「でも、もったいないよ」

 思わず口をついて出た言葉に、姫はこちらを見た。

 「自分が信頼できる人がいれば、別に他にどう思われていても興味ない」

 ―――自分が信頼できる人、か。

 例えば、四宮課長とかだろうか。なんとなくだけど、姫は四宮課長とは波長が合うのだろうと思う。それに、何があってもあまり動じないところが似ている気がする。
 
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