同期の姫は、あなどれない
 「倫花ちゃんは、新規案件もやりたい?」

 「そうですねぇ、せっかく開発部にいるしやってみたいです。今の保守も面白いし、ストックビジネスとして重要なのもわかるんですけど」

 実は来月から、新規案件でS製薬の要件定義フェーズがキックオフする。
 私はそのプロジェクトメンバーに選ばれていて、今日の午前中の打ち合わせもその案件についてのものだ。

 開発が始まればもっとメンバーが必要になる。
 そのメンバーに倫花ちゃんを推してみてもいいかもしれない。

 「急にどうしたんですか?もしかしてそういう話があったりします?」

 倫花ちゃんの指摘に私はギクリとする。
 というのも、肝心の設計開発フェーズの正式受注はまだなのだ。もちろん受注が既定路線ではあるけれど、今の段階では一部のプロジェクトメンバーともっと、上の役職の人しか知らないことになっている。

 私はあくまでも平静を装って「うーん、それはどうだろう」と言葉を濁した。
 はっきりとは言えないのがもどかしい。

 「あー、ごまかしてもだめですよ先輩。早瀬先輩ってすぐ顔に出るからわかりやすいんですよー」

 ふふふ、といたずらっぽく笑いながら、小動物のように大きな目をパチパチと瞬かさせている。
 なんか私、後輩に遊ばれてる…?

 「せんぱーい、教えてくださいよお」

 「だめだめ!はい、この話は終わり!提案書は確認しておくから、見積書作成よろしくね?」

 「うえー、そうでした……あ、お客さんから電話だ、ちょっと失礼しますね」

 
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