同期の姫は、あなどれない
衝動の行方
 そのまま電車は浜松町を過ぎてさらに15分ほど乗ったところで、次降りるからと促された。
 駅名標には目黒とある。オフィスのある恵比寿より1つ手前の駅だ。

 仕事が残っている、というのはやっぱり姫の作り話だったんだ。
 じゃあ、いったいどこに行くつもりなんだろう。

 普段はめったに利用しない駅なので、私は姫の背中を見失わないように少し後ろを歩いた。
 中央改札口を通って東口へと出ると、ロータリーの前で立ち止まった。

 「あぁ、そういえば駅ビル改装してんだっけ、、」

 姫は頭に手を置いて珍しく少し困ったような顔をして悩んでいる。

 「この辺、意外と店ないんだよな……家来る?」

 それは、今日の昼はカレーにする?くらいの気軽な提案だった。

 重さもなければ下心も感じない。
 それがますます、私を混乱させた。

 『―――ねぇ賢吾、まだ電話終わらないのー?』

 賢吾の部屋にいたであろう、女の人の声を思い出す。今度は自分が、あの女の人のような立場になるなんて、そんなの嫌だ。
 自分が傷ついたみたいに、あの時見た綺麗な彼女さんを傷つけたくない。

 姫には彼女がいるんじゃないの?
 それなのに私を誘うの?
 姫にとって私は、なに?

 次々に生まれる答えの出ない疑問が、霧のようにまとわりついて、私をがんじがらめにする。

 そしてついに、溢れだした。

 
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