同期の姫は、あなどれない
明かされなかった事実 姫side
 ―――噂をすれば何とやらで、間の悪いタイミングでかかってきた電話の主は兄貴だった。

 「兄貴からだ。ちょっと出てくるから食べてて。終わったら駅まで送る」

 無視してしまいたいけれど、そうすると後々面倒なことになるのは明らかなので、俺は嘆息して廊下に出た。

 「こんな時間に何の用」

 「あぁー、せっかくの兄からの電話にツレないなぁ」

 こういう調子で始まるときは、ちょっと暇だとか透子さんと喧嘩をしただとか、どうでもいい理由のときだ。
 案の定、話があるといっても中身があってないような内容で、今の俺にとっては面倒でしかない。こんな会話でも、早瀬が聞けば羨ましがるだろうか。
 そんなことを考えながら適当に相づちを打っていると「俺、もしかしてお邪魔しちゃってたりする?」とからかい口調で聞いてきた。

 「…何の話?」

 「さっきから上の空で、俺の話全然聞いてないだろー?」

 チャラチャラしているのに、無駄に勘がいいから嫌になる。
 そこまで勘を働かせられるなら、もう少しタイミングを読んでかけてこいという言葉を飲み込み、俺は追及をかわしながらどうにか電話を終わらせた。

 そして、戻ったらこの状況だ。

 「まじか、、、」

 テーブルに突っ伏した早瀬の横にあるグラスは、さっきまではそれなりに残っていたはずが空になっている。
 やっぱりコンビニで買うときに止めておくべきだった。甘いのが飲みたい、という屈託のない訴えに、それ以上反対できなかった自分の落ち度でもある。

 「おい、早瀬大丈夫か?」

 軽く揺すってみるけれど返事はない。
 もしかして具合が悪くなったのかと少し顔を寄せてみると、呼吸も顔色も普通で寝息だけが聞こえた。

 
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