【2/16 番外編追加】同期の姫は、あなどれない
 大きな水槽の前に立つと、中では極彩色の鮮やかな熱帯魚たちが泳いでいる。

 (綺麗……)

 いくつかある水槽の中で、私は広い水槽に一匹だけ泳ぐ熱帯魚に目を奪われた。

 銀色の体に、青と黄色のマーブル模様の長いヒレが、まるでドレスのようで一際目を惹く。ひらひらと揺らしながら泳ぐ姿はとても優雅で、挙動不審な私なんかよりよっぽど堂々とした佇まいに見える。

 その熱帯魚が気になって魅入っていると、ふと、焦点が水槽越しの男性に合った。

 「うちの看板娘、気に入っていただけました?」

 私が驚くと、その男性はにこりと笑ってから、ぐるっと水槽を回って隣りにやってきた。お店の人だろうか?でも他のスタッフの人たちと違って、少しラフな服装をしている。

 「はい、色も長いヒレも、すごく綺麗な熱帯魚だなと思って」

 「これはベタという魚種の中のハーフムーンという品種なんだ。この全身のヒレが180度開いて、それが半月のように見えるんだよ」

 男性は、人当たりのいい笑顔で説明してくれる。
 そこであっと気がついた。ハーフムーンはこのお店の名前だ。

 「お店の名前と同じ……だから、看板娘?」

 「ご名答、綺麗でしょ?」

 「はい。でも、水槽に一匹だけなんですね」

 「ベタは人懐っこいんだけど闘争心と縄張り意識が強くてね。メスはそこまででもないらしいけど個体差があるし、ここでは単独飼育にしてる」

 それからハーフムーン以外にも、他の水槽で泳ぐ熱帯魚の説明をしてくれた。
 その知識の多さに驚きつつ、大人の男性に使うのはおかしいかもしれないけれど話しているときの少年のようにキラキラ目が、本当に熱帯魚が好きなんだなと分かる。私は魚の飼育は金魚ぐらいしか経験がないから、この人の話をすごく面白く聞いていた。

 「こーら悟!またお客さんを困らせてるの?」

 突然聞こえた声に振り向くと、私より背の高いスタイルのいい女性が、隣りの男性に呆れたような視線を向けている。

 
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