同期の姫は、あなどれない
 「まぁ、とりあえず開発部門は次フェーズが取れてよかったけどな」

 「はい、それはよかったですけど…」

 要件定義が通って、設計と開発フェーズが正式に受注できた。
 これで秋から本格的に開発の仕事が始まる。でも本当なら嬉しいはずなのに気持ちが浮かない。

 「それで、これからどうなるんでしょうか?」
 「来週打ち合わせが予定されているからそこ次第だろう。一応向こうのシステム部長はうちについてくれると言ってるらしいがどうなるか」

 「難しそうなんですか?」

 「システム投資に渋ってる経営層が相手だからな。あまりそういったことに詳しくない相手に細かく説明しても理解されにくい。やり方を変えないと厳しいかもな」

 ―――それなら、宇多川さんを初めに味方につけたらどうだろう。

 ITコンサルの宇多川さんなら多少の知識はあるだろうし、きちんと説明すれば納得してもらえるかもしれない。
 そして宇多川さんからも助言してもらえれば、翻意してもらえる可能性も高くなるんじゃないだろうか。

 (どうしよう、連絡してみる?)

 私はポケットの中の社用携帯に手を伸ばす。
 私がしたところでどうにかなるものでもないかもしれない。でも。。

 私が逡巡していると、四宮課長が何かを思い出したように顔を上げた。

 「言うの忘れてた、姫元から早瀬に伝言。『余計なことはするな』だと」

 ――え?

 「それって、どういう意味ですか?」

 「いや、俺にも分からない。ただそう言っておいてくださいって頼まれた。早瀬こそ何か思い当たることはあるか?」

 「あ、いえ、、」

 思わぬ形で出鼻を挫かれたような格好になった私は、曖昧に首を振るしかなかった。

 余計なこと、か。

 自分がしようとしていたことが見透かされ、なおかつ無意味なことだと言われているようでどうしようもない無力感に包まれる。

 それから午前中は何をしていても身に入らなくて、これではいけないとPCに向き合っては手が止まるというようなことを繰り返していた。

 
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