同期の姫は、あなどれない
 「要件定義がストップしたって、どういうことですか…!?」

 その日、出社するとすぐに四宮課長に呼び出された。
 そしてそろそろ開発側の耳にも入るだろうからと、今関わっているS製薬プロジェクトの一部の進捗がストップしたと聞かされた。

 「待ったが掛かったのはインフラ案件のみだ。数日前に先方から急に連絡が来ていったん凍結だと。向こうのシステム部長も上からのトップダウンで困惑してたみたいだが」

 限られたメンバーしか知らないから他言無用な、という言葉に私は頷く。

 「ランニングコストがどうとか、将来リプレイスするときに金額が高くなるとかいう話が、システム投資に消極的な重役の耳に入ったらしい。要はうちの費用が高いって言いたいんだろう」

 「つまり経営側からのオーダーってことですか?でも、インフラは開発より先にOK出てましたよね?どうして急に、」

 「コンサルが横槍を入れたらしい」

 コンサルから。

 (ということは、もしかして宇多川さん…?)

 私は背筋に少しヒヤッとしたものを感じる。

 「インフラ基盤部分をもっと安くできる会社を紹介できるって言っているみたいだ。素人がどういう計算したんだか知らないが」

 滅多なことで動じない四宮課長だけれど、珍しく口調が苛立っている。

 「で、でも、機器の見積もりはもう変えられないですよね?」

 「ベンダーと握ってるからな。これでもっと安くしろと言ったらうちが嫌われる」

 以前少し見積もりを見たことがあるけれど、かなり利益率ギリギリでやっていたように思う。やれるとしても多少の工数削減くらいで、大きく減額するのは無理なはず。

 「姫元は今週その根拠資料づくりに追われてる。会議室で一課の永瀬課長とずっと缶詰だよ」

 それで、全然オフィスで会わなかったんだ。
 おそらく社内稟議もやり直しだろう。ちゃんと帰れているんだろうか。

 
< 90 / 126 >

この作品をシェア

pagetop