同期の姫は、あなどれない
 結局私はその日も、その次の日も返信できずにいた。

 思わず通知からアプリの画面を開いてしまって既読がついてしまったので、私が連絡を見たことは気づかれているだろう。何か返した方がいいだろうか。でもどう返せばいい?

 週末の間、買い物をしていても家でのんびりしていても、常にそのことが頭の片隅から離れず、そんなことばかり考えているのが嫌になる。
 きっとこれも何かの気まぐれで、こちらが何もリアクションをしなければこれっきりになるかもしれない。

 けれどその週明けに、予想に反して着信があった。

 画面の表示を見てどうしようか迷っていると、一度切れてからまた鳴る。
 私は一度深く息を吐いてから、電話に出ることに決めた。

 「あ、、久しぶり」

 通話ボタンを押して出ると、はっと息を詰めるような息遣いと同時に、賢吾の声が聞こえた。

 「うん……どうしたの?」

 「いや、元気にしてるかなと思って」

 久しぶりに聞いた声は、こちらを伺うようなどこか躊躇いがちで、まるで違う人みたいだと感じる。

 「ゆきの…怒ってるよな?」

 私が黙っているのを怒っていると思ったらしい。
 前は私の様子や機嫌なんてお構いなしで、自分が話したいことだけを話していたのに。

 でも、遠距離になる前の賢吾はこういう人だったなと、ふと懐かしさを覚えた。

 
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