同期の姫は、あなどれない
 「あいつとは付き合ってないよ、本当に。あいつは俺のことをすごいすごいって持ち上げて調子に乗らせてくれて、それに流されかけたけど、あの一度きり。それでもゆきのを裏切ったことには変わんないけど……」

 ぽつりぽつりとこぼれる今まで知らなかった賢吾の気持ちに、私は黙って耳を傾ける。

 賢吾は私の中の自分への思いが枯れていることに気づいているみたいだった。
 そして数ヶ月前の私が欲しかった言葉を、一生懸命に惜しみなく注ごうとしてくれている。

 「……賢吾、私ね」

 「うん?」

 「好きな人がいるの」

 電話の向こうで息をのむ気配がした。
 
 「もしあのとき、すぐに謝ってればよかった?」

 「……ううん、それでもいつかはこうなってたと思う」

 もしもあのとき仲直りできて付き合っていたとしても、自分はいつかこの思いに向き合わなければいけない日が来ていたと思う。

 私たちの関係は、例えば悟さんと透子さんのような一途な恋愛物語ではなかったということ。

 「さらっとひでぇこと言うのな、お前」

 「ごめんね、でも私も賢吾には相当酷いことされたと思うけど」

 「それは……悪かったよほんと」

 どちらからともなく、ふふっと小さく笑うような息が漏れる。

 そうだ、私は賢吾のこういう率直さが好きだった。
 本人はただの思いつきや気まぐれだったのかもしれないけれど、そのポジティブな明るさに救われたことも本当だ。

 「……賢吾、ありがとうね」

 どんな理由であれ、もう一度向き合おうとしてくれたこと。
 私も、進まないと。


 じゃあ仕事頑張って、と言うと、ゆきのも無理するなよ、と返されて電話が切れた。何だか久しぶりに昔みたいに話せた気がする。

 それが嬉しくて、そしてやっぱり、姫と会って話したいと思った。

 
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