世界はそれを愛と呼ぶ

第4節 本能

☪︎



「─主」

意識を失うように眠りについた沙耶を横抱きしたまま、黒橋家を目指していると、路地の影から声を掛けられる。

「報告を」

相馬がそういえば、相馬が足を止めずともピタリとついてきた、淡々と報告を上げてくる。

「……そうか。流石に死んでたか」

件の、女。恋に敗れ、愛を恨み、暴走した女。

「爛れた?遺体が?─血?出処は」

女は溶けるように、逝ったらしい。
その大量に溢れた血液からは、“御園”の気配。

「……早く潰したいが、あまりに時期尚早か」

頷く影を横目に、相馬は考える。
どうせならば、全てをまとめて潰してしまいたいから。

「華宮家当主に伝えろ」

─ならば、とりあえず流れを止めてしまえばよい。
その権限は華宮家当主にないが、御園当主にはある。
その事実を知るものは、ごく一部。

そして、“それ”が無くなって困るものは、確実に華宮家当主の元に駆け込みに来るだろう。

「全てを閉ざして、馬鹿な集会を閉じさせる。─里から連れてこい。仕事だ、と」

彼らならば、人間よりも仕事が早く片付く。

「一部は、沙耶の母方の実家である藤島に侵入しろ」

上がってきた情報をもっと、細かく見極める為に。
権限はフル活用させてもらう。

じわじわと、沙耶だけではない。
この国の裏側を侵食している、その糧に御園が利用されている現状を許してなるものか。

はじまりは、どこだ?どの時代だ。
御園の敵たる家が手を取りあって企んでいるならば、それは立派な国家転覆罪として取り上げる。

「…………兄さんが、動いています」

影が消えたタイミングを狙うように、背後に立った人物。
その相手に向かってそう言えば、

「少しは殺気を抑えな?」

と、困った顔で笑う伯父がいた。

「……、、来ていたのですね。陽向さん」

「御園が利用されていると聞いちゃあ」

「知っていたでしょう。視えていたのでは?」

相馬の疑いの眼差しに、陽向伯父さんは微笑むだけ。

「総一郎が動いているなら、大事かもな?」

勝手に家出した兄を、陽向伯父さんはずっと追っていたのだろう。居場所も、何のための家出なのかも理解しているのか、余裕綽々の態度。

「……この子は、お前の唯一か」

沙耶の寝顔を覗き込んで、尋ねてくる陽向伯父さんの眼差しは温かく、とても柔らかくて。


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