世界はそれを愛と呼ぶ
「……今、自分の衝動と理性の狭間です」
「お前が?」
「……変ですか」
「いいや?」
驚きながらも、即否定する伯父。
「その衝動のまま動けば、お前は後悔するよ。でも、無駄に理性で縛りこんでも意味が無いだろう」
「だからって、本能のままに動けと?」
「馬鹿言え」
こつん、と、頭を小突かれ、相馬は自分も疲れているのかもしれないと、ふと思った。
「互いの気持ちを擦り合わせながら、共にいるのだろう。なら、今はゆっくり。落ち着くならば、その距離感のまま過ごせば良い」
「あと1年もないのに?」
「卒業しても、大学に通う手があるぞ?」
「そんなことしたら、停滞しませんか?仕事」
「する。当主代理立てても、家的には問題ないが……速度に問題が出る」
御園家は、呪われている。
それは、言葉通りでもある。
まるで、家が意志を持っているかのように。
選ばれた人間以外が、当主になると、呪われるのだ。
しかし、当主が任命した代理ならば、決められた範囲を超えなければ、家はその人間を呪わない。
ただ、相馬のこなす仕事量を同じスピードでこなすことができる人間がもう、御園家には存在しないだけ。
「ダメじゃないですか」
「そうだな。……まぁ、1年くらいは問題ないさ」
沙耶の寝顔を見ながら微笑む顔は、まるで娘を見るような眼差しで、何となく、本当に何となく、相馬は訊ねた。
「……陽向さんは、沙耶を知っていたんですか?」
「そりゃ、健斗の娘だし?」
「そうではなく」
「お前の唯一かどうかって話なら、お前は昔、彼女を見て泣いていたからな。わかるよ」
「泣……?」
「唯一無二の運命だとしても、それは自分で引き寄せなければ意味がないから、敢えて何も言ってこなかったんだよ。今、その手に収めている現在、衝動と理性の狭間で苦しんでいるならば、それは御園の人間に課せられた呪いだ。先駆者として助言するならば、最愛はきちんと捕まえておけ、くらいかな」
「そんなことはわかってますけど……というか、なんでここにいるんですか。何にも連絡もらってませんが」
「してないからな。……俺がここに来た意味、慧に婚約者の改善方法を伝えるためだし」
「見つかったのですか」
「見つかったというか……無理に入れられ、適合してしまったものを抜く方法は、正直なかった。でも、不幸中の幸いか、慧は学者だ」
「それが……?」
「そして、神宮寺家は唯一、御園の能力を抑え込んだ功績を持つ一族だ。古くから人身御供としても利用され、魔のものと対立し、調和へ導いた一族だろう」
あくまで根拠がはっきりとしていない仮説ではあるが、御園の初代は片親が神宮寺の血縁だったとされる。
それ故、娘の初代が鬼と番った際、異種族であるにもかかわらず、その肉体は鬼の愛欲に耐えられたのではないか、と、推測されている。
「その血液を錠剤とし、御園の血を入れられたであろう彼らに支給すると?茉白は慧と結婚すれば良いけど、そんな人体実験のようなことは認められませんよ」
「……なるほど、よく思いつくな」
「え?」
陽向さんは目を見開いて、考え込む。