世界はそれを愛と呼ぶ
─…………どのくらいの、時間が経っただろう。
赤い液体は、茶色のシミとなり。
湊の頬は引きつって痛くて、目眩がする。
涙は枯れてしまったわけもなく、まだ溢れているのに。
こんなにも、心臓は動いているのに。
─なのに、彼女は冷たいまま。
『っ、はぁ、遅かったか!』
聞こえてきたのは、そんな声。
足の感覚ももう無くって、父親が自慢していた本物の刀を、命という命を摘み取ったそれを、握る気力もない。
『覚えているか?僕のこと』
頬をぱちぱちと叩きながら、大きな声で呼びかけてくれる彼は、あの日、外で湊に声をかけてくれた─……。
『遅くなってすまん。やっぱり、あの日、後を追えばよかった。─君は、今にも死にそうな顔をしていたのに』
彼曰く、あの日から3日経っていたらしい。
部屋の中は腐敗臭で満ちており、彼は湊が抱いていた彼女に優しく毛布を掛けると、湊を抱き抱えて。
『やだっ、やだ!!!ソラっ、想來(ソラ)!!!!』
暴れる湊を強い力で抱き締めて、何度も健斗は繰り返す。
『彼女も君と連れていく!ちゃんと供養をしよう』
『やだっ、俺も、俺も死なせて!俺も死なせてくださいっ、想來がっ、汐(シオ)がいない世界なんてっ、』
『湊!!』
『死にたい!死なせてっ、お願─……っ』
─……後から聞いた話だと、健斗は湊の意識を落として、運んだらしい。
錯乱状態になっていたらしく、健斗達と入れ替わりで、警察が介入したとか。
原因とか、そういうものは全て不明だったけど、多くの証拠を大人が残しておいたらしく、それが元手となり、事件は復讐によるものだと言われた。
健斗曰く、湊もかなり危険な状態だったらしく、手厚い看病を受けながら、眠っている最中に全ては片付けられた。
本来ならば裁かれて、終身刑を食らってもおかしくないことを犯したにも関わらず、少年だったから、未成年だったから、事が事だったから、そして、北御門は元々、警察が目をつけていた家だったから。
様々な要因が重なり、情状酌量と言っていいのか分からないが、湊は今も健斗に守られ、健斗の元で生かされている。
【夏川】の苗字は、あの父親が求めてやまず、手に入れることが叶わなかった女性の弟の姓。
血縁関係的に全くの無関係と思えば、その女性の旦那さんが、湊の血縁上の叔父というから、やってられない。