世界はそれを愛と呼ぶ
「ねぇ、健斗」
「うん?」
「今回ね、北御門が懇意にしていた家を洗ってきたんだ。御園相馬の手の者だという使用人の振りをした人達が助けてくれて、多くの情報を集めたよ」
「情報は共有したのか?」
「ううん。こちらを信用出来ないだろうから、と、向こう側に言われちゃって。でも、情報はくれたよ。信じなくてもいいから、って」
─夏川湊は、他人を信じられない。
同時に、自分のことが世界でいちばん嫌いである。
子供だったから、仕方がなかった。
頑張った子だと、言ってくれる人達もいた。
きっと、世間的には【あの復讐劇から頑張って逃げ延びた子】になっているからだろう。
でも、その道に詳しい人間が見れば、すぐに理解されそうなものだ。─その可哀想な子供が、主犯だったと。
30年以上前の話で、未だ未解決事件で。それなのに、それを探る人間も、テレビに取り上げられることもない。
そっと静かに、闇に葬り去られていく。
─なぜなら、被害者は1名を除いて、終身刑レベルの犯罪者だったから。
「……幸せに、なりたかった」
夏川湊は、一筋の涙を流した。
やっと、あの事件の後始末が見えてきた気がする。
あの日、仕留め損ねた人々を漸く、“終わらせられる”。
「あのね」
「うん、」
「俺、沙耶に救われたんだよ」
「……うん」
「最初は怖かったけど、小さな手がね、俺に伸びるの。大樹達もそう。俺の名前を呼んで、笑ってくれる。……あの子のように。だから、何でもしてあげたくて」
「…………」
「っ、あんなっ、家に生まれなければ」
あの子は今、おじさんになってて。
湊とお酒飲み交わして、多分、あの日がなかったら、湊はフリーターだっただろうから、それを窘められるような、そんな、夢、みたいな……。
隣では、想來が笑ってて。
もしかしたら、子供がいたかもしれなくて、その子は成人しててもおかしくない年齢─……。
─……嗚呼、あの日さえなかったら。
あの家にさえ、生まれていなければ。
君たちが生きていたら。
「……よう、頑張ったな。お疲れさん」
(─ねぇ、俺、頑張ったよ。偉い?ねえ)
返ってくることない、問いを繰り返す。
(やっと、君を追い込んだ大人全員突き止めたよ。死んでた連中には、家族にその罪を羅列した書類を送り付けたよ。君なら、残酷と怒るかな。愛想尽かして、嫌われちゃうかも。でもね、それでも、)
『湊、だーいすき!』
(……それでも、俺は君を愛してる)
─夏川湊は、独身である。
過去も、今も、未来も、死ぬその瞬間まで。
『にぃに』
(天国で、いっぱい遊んでいるかな。もう、優しい人達のところに生まれ変わってるかな。……分かんないけど)
ずっとずっとずっとずっと、抜け出せない。
底なし沼の地獄のような現実で、喘いでいる。