世界はそれを愛と呼ぶ
「…………そ、そう、ま?」
少し息苦しくて、それでいて、聞こえてくる心臓はどちらの音か。
髪に触れる相馬の指に力が籠っているのを感じながら、沙耶は大人しくした。
何だかわからないけど、こんなめちゃくちゃな状況でも安心しきっている自分の身体を不思議に思いながらも、それが正解だと、何故か思ってしまったから。
「ねぇ、相馬?貴方が守ってくれているのに、価値がないと言ったことはごめんなさい。でもね、貴方が、貴方だけがそこまで犠牲になって、私を守る理由が、私には分からない。私が、相馬の番、運命、だっけ?正直、嬉しいよ。相馬の意思じゃないにしても、生まれて初めて好きだと思った人がそう言ってくれることは。……感じれなくて、ごめんね。わからなくて、ごめんなさい。大事にしてくれてありがとう」
だから、思っていることを、全部口に出してみた。
勇真兄に言われてから、ずっと考えていたこと。
恋とか愛とか、そんなものは未だに分からない。
相馬のそばが安心する。
沙耶のなかにあるのはそれだけで、沙耶が相馬に差し出せるものだって、何ひとつだってない。
でも、
「話をしよう?教えて、相馬のこと」
知りたいと、思うよ。
「相馬ばっかり、私のこと知ってるのズルいよ」
あなたの体温は、匂いは、気配は、安心するの。
正直、このまま眠ってしまいたいと思うほど。
「捨てるはずだった心を、拾って大事にした責任は取ってね」
甘えているだけ。本当に、ただそれだけ。
赦されたいわけじゃなかった。
赦されたくなんてなかった。
あなたは、その答えを出さないのに。
隣にいて、微笑んで、ずっと『大丈夫』って。
─それだけで、私の心はあったかくなったの。
「……嫌じゃないのか」
暫くすると、相馬が呟いた。
少しぶっきらぼうで、いつも優しさだけを溶かした声とは違って、新鮮さを感じる。
「嫌って何が?」
「……俺の、その」
「番であること?」
聞き返すと、頷いた相馬。
正直、番というものが何なのかは分からないし、だから、自信を持って大丈夫とは言えないけど。
「分からないことに、答えは出したくないな。教えてくれる?」
訊ねること、あなたは許してくれるでしょう?
「どんな答えでも、私は相馬を嫌いにならない。なれる気が、しないから」
子の腕の中で死んでしまいたいと願うほど、どうやら私はあなたを好きみたいだから。