世界はそれを愛と呼ぶ
静まり返った、室内。
その静寂を破る、君の声。
「…………ねぇ、相馬?」
「ん?」
何とも言えない、母の最期。
重すぎる話に、沙耶の気持ちを心配していたら、彼女は唐突にそんなことを言った。
「ぎゅーしよ」
突然の申し出に、思わず腕を緩めると、彼女は身体ごと振り向いて、抱きついてくる。
「さ、沙耶?」
「……私さ、赦されたくないとか言いながらね、朝陽が二度と目覚めない理由とか、そういうことに気付いた時ね、『お前のせいじゃないよ』って言葉より、そんな優しさよりね、ただ、抱きしめて欲しかったの」
「……」
「赦してくれなくていい、私のことを責めてもいいから、ただ抱き締めて欲しかった」
沙耶と視線が交じり合う。
水の膜を目に宿した彼女は微笑みながら、
「私がいるよ 」
そう言って、手を伸ばしてくる。
それに手を伸ばしてしまうのは、相馬の弱さ。
でも、それを受けいれるのは、沙耶の強さ。
「私は話を聞いただけで、御園家のことも、相馬のことも、完璧に理解した訳じゃない。でもね、やっぱり、相馬のそばにいたいよ。私は何も出来ないし、周囲の問題は何も解決してないし、全部相馬に頼りきりで、これからも迷惑いっぱいかけちゃうけど、でも」
身体が動いた。
勝手に、と言おうか、否、自らの意思で、彼女の頬に触れて、そのまま、頑張って言葉を紡ぐ唇を掠め取る。
「っ、そ、相馬」
一瞬だったのに、顔を赤くする沙耶。
その姿が可愛らしく、手離せないと、心が叫ぶ。
「沙耶、甘やかさせて」
「……、あれ、なんか、もう相馬のペースじゃない?」
少し悩んで、身を託してくる沙耶。
それを受け止め、相馬は抱きしめる。
「何があっても守るよ」
「……」
「だから、そばにいて」
永遠の誓いとしては、弱くて。
これから先、迫り来る悪意は目の前に。
薄氷の上に立つ俺達を繋ぐのは、運命だけ。
「愛してる」
そう伝えると、沙耶は目を瞬かせて。
「……フフッ、私も」
たった数ヶ月の出来事。
特別、なにかあったわけでもなく。
それなのに、目の前の彼女に惹かれてしまった。
「大好き」
─どうせ、めちゃくちゃな人生なら。
生きているだけで、誰かに許されないといけないなら。
なら、共に生きて死ねば良いだけ。
「沙耶、俺と恋人になることで危険があるかもしれないから、影から護衛をつけても?」
「別にいいけど……元々、似たような人、付けてなかった?」
相馬がそばにいられない時、つけていたことはバレバレらしく、沙耶は相馬の表情から察したのか。
「御挨拶しなくちゃね」
と、相馬の腕の中で朗らかに笑った。