世界はそれを愛と呼ぶ
「兄の性格が良いとは思ったことはありませんが、生き生きとした表情で、淡々と命乞いをする元主君に対しても、無期懲役などで煽っている姿を見た時、『この人が変に世間的に権力持たなくてよかった』と思ったこと、今も忘れません」
清々しいまでに良い笑顔だが、鳳月家当主の権力は彼にとってはそう強いものではないのだろうか。
確かに、北御門家からの命令により、鳳月家の人間も出馬しなければならないこともあったらしいが……確かに、彼が相手だと、御園と国のやり取りも面倒なことになる気がする。
「……確かに昔、初めてお会いした時、まだ当主としては未熟だと思っていた私にアドバイスを下さいました」
「御園御当主に、兄が?」
「はい。自分で言うのもあれですが、それなりに綺麗な顔立ちをしている方だと言われまして」
「そうですね。とても美しいお顔立ちだと思います。この街にいると、忘れがちですが……」
凌さんがそう言い淀むのは、黒橋家も黒宮家も全員、目を引く美貌をしているからである。
美しさは個人の価値観であるが、この街にいれば、誰かひとり、美しいと思える人間に出会うのではないかと思うほど、この街には綺麗な見目の人間が多かった。
おかげで、人からの視線が絶えなかった相馬が堂々と歩き、笑い、好き勝手生活出来ているのだが。
(これまではそんな自由も許されなかった)
「霞さんに言われたのは、『運も、顔も、酒の強さも、使い所ですよ。─呑めるようになったら、また』と」
そういえば、あれ以来、直接会ってはいない。
相馬が元々、あまり人と会わない生活を送っており、表には甲斐を代理として立たせがちであることも勿論だが、彼の人柄は初対面の時にある程度把握した感じ、話が弾むだろうなと、幼心に思った。
「あの兄らしいというか、なんというか……寛大な御心で、鳳月家を取り潰されなかったこと、末弟として感謝いたします」
「いや、普通に面白い人だなと感じたし、ここでの俺は18歳の青年だ。先程から言おうと思っていたが、楽に話してくれ」
「……で、あれば、お言葉に甘えて。
早速、一応、聞いておきたいんだけど、兄があなたにそう言ったの、何歳くらい?」
「初対面の時なら……確か、俺が6歳とか」
「わあ……」
「大丈夫。付き添いの伯父も大笑いしていた」
「頭が痛い……」
兄の無鉄砲さに頭を抱えるのは、どこの弟も同じらしい。
「俺にも、似たような兄がいるので気持ちはわかる」
相馬が頷けば、
「総一郎様ですよね……」
と、呟く凌さん。
「そうそう」
「一度、まだ幼い頃、会ったことがある。総一郎様と、霞兄さんはなるべくなら会わせたくない」
「同意」
何故なら、何をしでかすか分からないからである。