世界はそれを愛と呼ぶ
◇
『え、陽向さんと連絡取りたい?』
『うん。会えたら良いなとも思うけど、無理なら、電話で良いの』
幸の幸せそうな姿を見て、大満足した顔をしていた娘が突然、口にしたわがまま。
思わず、驚いて固まると、
『なにかお話したいことがあるの?』
と、幸が優しく沙耶に問う。
すると、沙耶は微笑みながら。
『相馬とずっと一緒にいる方法を聞きたいの』
─その瞳はあの日、ずっと拒絶していた健斗の求婚を受け入れてくれた妻に似ていた。
『……何を聞いても、逃げないなら』
連絡を取れるように計らうことは簡単だ。
しかし、御園家は、特に相馬が抱える問題はそれだけではないことも知っている。
傷つき疲れた娘が、それを受け止めきれるか。
そう悩んでいる健斗を見透かしたように。
『ごめんね。お父さん』
娘は微笑んで、言った。
『抱えきれないものだったら、泣くかもしれない。また慰めてもらって、心配をかけるかも。もし抱えきれても、いつかは限界が来るかも。─考えれば考えるほど、上手くいかない未来ばかり思いつく。でもね、そんな“かも”に怯えて逃げるなら、私は相馬のそばにいたいの。あの人が素直にわがままを言える存在になりたい』
『……』
『私、まだ自分を愛せないの。嫌いなの。大切に出来ないの。でもね、相馬に大切にしてもらって、ゆっくりとね、私を大切にしてくれている人達を見ることができるようになって、今、人生で一番、穏やかに息をして、過ごせているかも。周囲にはたくさん、迷惑をかけているけど』
娘は変わった。たったひとりの、根気強い運命で。
『……あの人が大切にしてくれる、私が嫌いな私は、あの人が大切にしないあの人自身を愛して、大切にしたいと思ってるの。わがままでごめんね』
そう言って笑う娘を止める理由が、健斗には思いつかなかった。
『……初めて、欲しいと思った人なの』
顔を赤らめる娘は、恋をしているのだ。
その事実が嬉しく、少し寂しい。
『沙耶の気持ちはわかったよ。反対なんかしない。……ここは君の家で、君の帰る場所。覚悟があるなら、それを貫き通しなさい』
健斗は沙耶の頭を撫でながら、反対の手で陽向さんへのメールを作成し、送った。
『子どもって、大きくなるのが早い』
しみじみと呟くと、かつて小学生だったはずの幸が『ね〜』と同意してくる。
『僕からしたら、幸も変わらんよ』
『ええ?私、もう三十路だけど』
『変わらんよ。ずっと』
電話が鳴る。
健斗のスマホが震え、名前を見ると、陽向さん。
想像以上に早い折り返しに驚きながら、健斗は沙耶にスマホを差し出した。
『え、陽向さんと連絡取りたい?』
『うん。会えたら良いなとも思うけど、無理なら、電話で良いの』
幸の幸せそうな姿を見て、大満足した顔をしていた娘が突然、口にしたわがまま。
思わず、驚いて固まると、
『なにかお話したいことがあるの?』
と、幸が優しく沙耶に問う。
すると、沙耶は微笑みながら。
『相馬とずっと一緒にいる方法を聞きたいの』
─その瞳はあの日、ずっと拒絶していた健斗の求婚を受け入れてくれた妻に似ていた。
『……何を聞いても、逃げないなら』
連絡を取れるように計らうことは簡単だ。
しかし、御園家は、特に相馬が抱える問題はそれだけではないことも知っている。
傷つき疲れた娘が、それを受け止めきれるか。
そう悩んでいる健斗を見透かしたように。
『ごめんね。お父さん』
娘は微笑んで、言った。
『抱えきれないものだったら、泣くかもしれない。また慰めてもらって、心配をかけるかも。もし抱えきれても、いつかは限界が来るかも。─考えれば考えるほど、上手くいかない未来ばかり思いつく。でもね、そんな“かも”に怯えて逃げるなら、私は相馬のそばにいたいの。あの人が素直にわがままを言える存在になりたい』
『……』
『私、まだ自分を愛せないの。嫌いなの。大切に出来ないの。でもね、相馬に大切にしてもらって、ゆっくりとね、私を大切にしてくれている人達を見ることができるようになって、今、人生で一番、穏やかに息をして、過ごせているかも。周囲にはたくさん、迷惑をかけているけど』
娘は変わった。たったひとりの、根気強い運命で。
『……あの人が大切にしてくれる、私が嫌いな私は、あの人が大切にしないあの人自身を愛して、大切にしたいと思ってるの。わがままでごめんね』
そう言って笑う娘を止める理由が、健斗には思いつかなかった。
『……初めて、欲しいと思った人なの』
顔を赤らめる娘は、恋をしているのだ。
その事実が嬉しく、少し寂しい。
『沙耶の気持ちはわかったよ。反対なんかしない。……ここは君の家で、君の帰る場所。覚悟があるなら、それを貫き通しなさい』
健斗は沙耶の頭を撫でながら、反対の手で陽向さんへのメールを作成し、送った。
『子どもって、大きくなるのが早い』
しみじみと呟くと、かつて小学生だったはずの幸が『ね〜』と同意してくる。
『僕からしたら、幸も変わらんよ』
『ええ?私、もう三十路だけど』
『変わらんよ。ずっと』
電話が鳴る。
健斗のスマホが震え、名前を見ると、陽向さん。
想像以上に早い折り返しに驚きながら、健斗は沙耶にスマホを差し出した。