世界はそれを愛と呼ぶ


「─…………後悔するぞ」

「しないよ」

「いや、絶対にする。化け物姿の俺を見たことない癖に……」

「隠してくれていたんだよね。それだけでも、かなり疲れを溜めていたんじゃない?」

陽向さん曰く、新月の夜は耐え難い衝動に襲われるらしい。だから、鬼の血が強い御園の人間は自室に閉じこもるし、腹の底から湧き出てくる飢餓感を満たすことがないよう、やり過ごさなければならない苦痛の日。

酷い人は、自分の四肢を繋いで耐えるんだと。
でもその衝動も、完全に消えなくても、番がいることで楽になるという。
番を抱いていれば、飢餓感からは解放され、孤独感は消え去り、安らぎと幸福を得られるという。

(何も返せない私が、相馬に返せる愛情)

「愛してるよ、相馬」

沙耶があまりにも背伸びするから、優しい貴方は身を屈めてくれて、そんな優しさにも胸がきゅうって苦しくなって、愛おしさを感じて。

「全部見せてよ」

首に抱きついて、大きな背中に手を回して。
何度目かの触れるだけのキスを贈り、強請ってみる。
黙ってきたけど、末っ子だから。
甘やかされてきたから、わがまま言うのは得意なの。

「…………もうちょっとゆっくり考えて欲しいんだが」

にこーっと笑いかけていると、相馬は困った顔。

「普段はすぐに真っ赤になるくせに、時折、急に大胆になるのは何なんだ?……俺、なんか変な事言ったか?」

馬鹿な人。自分の発言を、失言と思わない人。
─嗚呼、でもきっと、傍から見た沙耶もこんな感じで、多くの人を悲しませてきたんだと、最近はよく考えるようになってきた。

「……言ったけど、知らなくていいよ。貴方がしてくれたように、あなたが大切にできないあなたは、私が愛して大切にして幸せにするから」

─私は未だに自分のことを許せない。
でも、それを許し、抱き締めて、泣かせてくれる、甘やかしてくれるあなたがいるから。だから、私も。

「だから、全部見せて。全部ちょうだい」

沙耶は繰り返す。頑固なあなたが、折れるまで。

甘えるように抱きついて、頬が触れ合って。
何がなんでも契約を結んでもらう意思で甘え続ければ、

「……俺の負け」

相馬がそう呟いて、額が合わさる。
視線が交わり、優しく唇が触れる。


─それはすぐに深いものに変わり、沙耶はそのまま身を委ねた。


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