世界はそれを愛と呼ぶ
◆
『……本気か』
目の前の青年に尋ねられ、秋乃は頷いた。
『この子達が何かされるなんて、私には耐えられない』
眠る、3人の幼子。
まだ、2歳の可愛い子供たち。
『今ならまだ、私を忘れて幸せになれるでしょう?』
売られるように嫁いできた家で、授かった幸福。
しかし、それは夫たる当主の方針で脅かされそうになっていた。
『わざわざ逃がさずとも、俺が』
『馬鹿言わないで。貴方を縛り付けたくない』
『っ!』
『……これ以上、奪われるわけにはいかないの。貴方も同じでしょう?』
─……それは、3年前に遡る。
夫の第一夫人は、双子の男児を産んだ。
『ひとりの能力が半分以下となる』
─意味の分からない理由で、殺された。
夫の第二夫人は、三つ子の男女を産んだ。
そして、一人の女の子を産んだと嘯いた。
『女など!男でなければ、何も意味がない!』
─また、意味の分からない理由で殺された。
秋乃は両親の借金返済の為、売られた。
第一夫人が遺した双子の男児よりも、十も歳下の秋乃は、彼らの父親である当主に嫁がされる。
耐えられなくて、苦しくて、最愛の恋人に別れを告げた夜、恋人が『どうにかするから』と。
─そして、初夜と呼ばれた日。
『この家の後継者として相応しい、能力の高い男の子を産め』
─そう宣った当主は、秋乃に“何か”を呑ませた。
薬のようなそれは、甘美で。
近付いてくる当主の顔に、秋乃は目を瞑る。
『ハッ、相変わらずか』
─恐怖や嫌悪のあまり、意識が途切れそうになった瞬間、聞こえた声。
影が落ち、当主の手が秋乃に触れる寸前。
目を開けると、最愛の恋人がタオルを当主の口に当てていた。
当主はグタッとしており、彼は当主を抱えると、そのまま、隣室へ放り込む。
『ちょっ、な、何してるの!』
『ん?─惚れた女に手を出されかけて、黙ってるわけねぇだろ』
『っ、違っ、こんなことしたら!』
『常磐家の人間と結婚すれば良いんだ。常磐家の子どもを、産めばいいんだ。それなら、俺でいいだろ』
─その言葉と共に、唇を塞がれて。
何度も彼とは繰り返してきた行為だけど、頭の中は混乱していて、全てが終わった頃、彼が第一夫人が遺した息子だと知った。
『あの人は、俺達に興味が無い。この屋敷も歪んでいるし……まぁ、敵の巣窟みたいな場所だが、俺にも味方はいるんだ』
彼がそう言ったタイミングで、隣室で聞こえる声。
『─旦那様、お嬢様への面会が迫っておりますよ!』
そして、当主の怒号。
バタバタ飛び起きて、遠ざかっていく音。
『─な?昨夜、自分が初夜を迎えた女の行方すら、興味無しだ。……自分が怪しげな女から貰った、怪しげな薬を妻に飲ませて、母も、第二夫人も亡くなった』
彼─仁(ジン)は、秋乃を強く抱き締めて。
『……お前は、お前だけは許せなかった』
深く、息をつく仁。
『父はお前を妻に迎えたことを、今日、報告すると思う。すると、怪しげな女は父を褒めるだろう。さすれば、父はお前と何もしていないが、“何かした”と思い込む。その狂った頭を利用する。……まぁ、妊娠した女には完全に興味を無くすから、お前が妊娠すれば』
そこまで言いかけて、仁は口を手で覆った。
『……あまりにも、お前の人権を無視した話し方をした。すまん。この家で、人権なんてないも同然とはいえ、いくらなんでも……』
『何が起こってるの、教えて』
秋乃の気持ちより、この家の全てを知りたかった。
怖い、嫌だ、なんて思っても、秋乃に帰る場所はない。
目の前の恋人、仁の腕の中だけが帰る場所だったの。
仁は躊躇った末、全てを話してくれた。
そして、2ヶ月もしないうちに、秋乃は妊娠した。
当主は触れるどころか、一度も顔を見せなかった。
だから、秋乃のお腹に宿る子は、仁との子だ。
『……本気か』
目の前の青年に尋ねられ、秋乃は頷いた。
『この子達が何かされるなんて、私には耐えられない』
眠る、3人の幼子。
まだ、2歳の可愛い子供たち。
『今ならまだ、私を忘れて幸せになれるでしょう?』
売られるように嫁いできた家で、授かった幸福。
しかし、それは夫たる当主の方針で脅かされそうになっていた。
『わざわざ逃がさずとも、俺が』
『馬鹿言わないで。貴方を縛り付けたくない』
『っ!』
『……これ以上、奪われるわけにはいかないの。貴方も同じでしょう?』
─……それは、3年前に遡る。
夫の第一夫人は、双子の男児を産んだ。
『ひとりの能力が半分以下となる』
─意味の分からない理由で、殺された。
夫の第二夫人は、三つ子の男女を産んだ。
そして、一人の女の子を産んだと嘯いた。
『女など!男でなければ、何も意味がない!』
─また、意味の分からない理由で殺された。
秋乃は両親の借金返済の為、売られた。
第一夫人が遺した双子の男児よりも、十も歳下の秋乃は、彼らの父親である当主に嫁がされる。
耐えられなくて、苦しくて、最愛の恋人に別れを告げた夜、恋人が『どうにかするから』と。
─そして、初夜と呼ばれた日。
『この家の後継者として相応しい、能力の高い男の子を産め』
─そう宣った当主は、秋乃に“何か”を呑ませた。
薬のようなそれは、甘美で。
近付いてくる当主の顔に、秋乃は目を瞑る。
『ハッ、相変わらずか』
─恐怖や嫌悪のあまり、意識が途切れそうになった瞬間、聞こえた声。
影が落ち、当主の手が秋乃に触れる寸前。
目を開けると、最愛の恋人がタオルを当主の口に当てていた。
当主はグタッとしており、彼は当主を抱えると、そのまま、隣室へ放り込む。
『ちょっ、な、何してるの!』
『ん?─惚れた女に手を出されかけて、黙ってるわけねぇだろ』
『っ、違っ、こんなことしたら!』
『常磐家の人間と結婚すれば良いんだ。常磐家の子どもを、産めばいいんだ。それなら、俺でいいだろ』
─その言葉と共に、唇を塞がれて。
何度も彼とは繰り返してきた行為だけど、頭の中は混乱していて、全てが終わった頃、彼が第一夫人が遺した息子だと知った。
『あの人は、俺達に興味が無い。この屋敷も歪んでいるし……まぁ、敵の巣窟みたいな場所だが、俺にも味方はいるんだ』
彼がそう言ったタイミングで、隣室で聞こえる声。
『─旦那様、お嬢様への面会が迫っておりますよ!』
そして、当主の怒号。
バタバタ飛び起きて、遠ざかっていく音。
『─な?昨夜、自分が初夜を迎えた女の行方すら、興味無しだ。……自分が怪しげな女から貰った、怪しげな薬を妻に飲ませて、母も、第二夫人も亡くなった』
彼─仁(ジン)は、秋乃を強く抱き締めて。
『……お前は、お前だけは許せなかった』
深く、息をつく仁。
『父はお前を妻に迎えたことを、今日、報告すると思う。すると、怪しげな女は父を褒めるだろう。さすれば、父はお前と何もしていないが、“何かした”と思い込む。その狂った頭を利用する。……まぁ、妊娠した女には完全に興味を無くすから、お前が妊娠すれば』
そこまで言いかけて、仁は口を手で覆った。
『……あまりにも、お前の人権を無視した話し方をした。すまん。この家で、人権なんてないも同然とはいえ、いくらなんでも……』
『何が起こってるの、教えて』
秋乃の気持ちより、この家の全てを知りたかった。
怖い、嫌だ、なんて思っても、秋乃に帰る場所はない。
目の前の恋人、仁の腕の中だけが帰る場所だったの。
仁は躊躇った末、全てを話してくれた。
そして、2ヶ月もしないうちに、秋乃は妊娠した。
当主は触れるどころか、一度も顔を見せなかった。
だから、秋乃のお腹に宿る子は、仁との子だ。