世界はそれを愛と呼ぶ


『私、産むからね』

『……秋乃』

『全てわかった上で、私は産むわ。心を殺すことになっても、この子達を産む』

エコーで、3人いることは産む前にわかっていた。
それでも、秋乃は産みたかった。
不安そうな顔をする、仁に微笑んで。

『この子達がいれば、私に何かあっても、あなたはひとりではなくなるもの』

─強く抱き締められる。
心配はいらないと伝えたけれど、仁はそれでももしもの事がないよう、病院で出産できるように手続きをしてくれて、当主にも様々な言葉を尽くし、秋乃を病院で囲ってくれた。

当主は、病院に顔すら出さなかった。
代わりに、仁はずっとそばにいてくれた。

『〈世間の目があるから、傍についていた方が良いとされる。しかし、病院に閉じ込めてしまえば、お嬢様に会いに行く時間が作れます。妻の出産ごときで、お嬢様にご迷惑をかけるなど、あってはなりません。お父様は病院に行くふりして、お嬢様の元へ向かえば良いのです。もちろん、第三夫人の監視は必要でしょうから、私が務めます〉─と、伝えてきた』

あまりの嘘つきに、秋乃は驚いた。
そして、そんなことで騙され続けているあの男も。

『……お嬢様は、何を欲しているの?』

『さあ?ただ、許せないんだと思う』

『何を』

『自分をコケにした、全てを。だから、全てを掌握したいのだと思う。滅ぼすよりも、ね』

『……』

分からない、長い長い憎悪劇。
それは徐々に、秋乃達の生活も侵していく。

だから、仁に逃がしてもらった。
一番、能力値が低かった上のふたりを。

身が裂かれるように辛くて、泣き暮らした。
仁もいなくなった家は寒くて、末の冬陽だけが支え。

冬陽は閉じ込められても、盗聴器を付けられた生活を強要されても、学校に行けず、友達ひとり出来なくたって、『母様がいれば大丈夫』そう言って、笑った。

耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、耐えてきたんだ。
だから。

『すみません、奥様。私の知り合いの子が、冬陽様達にお会いしたいと─……』

そう、凌に電話で言われた時、嬉しかった。
久しぶりに、外の世界と触れ合う機会だったから。

凌の付き添いだから、と、当主も見逃してくれた。
それでも、盗聴器は止めることはないから、それは凌に事前に説明するように伝えた。

名前を聞いた。年齢を聞いた。
そして、秋乃は息が止まりそうになった。

『─ねぇ、仁。どうして、ハルヒは悠陽なの?』

ナツヒは、夏陽。フユヒは、冬陽。
秋乃の秋も含めて、春夏秋冬と笑うなら、
ハルヒも春でいいじゃない?と、そう尋ねたら。

『理由は、ふたつある。ひとつはゆったり、伸び伸びと生きていって欲しいから。もうひとつは単純に、父が春の家が大嫌いだから。悠陽にたまたま出会った時、何かされたら溜まったものじゃない』

─子供は、ひとり。冬陽と名付けたことは報告済。

『それなら、報告は夏陽が良かったんじゃ?』

『いや、あの人、この家も嫌いだから。お嬢様は、冬の家の関係者だと言われているからね』

秋乃には理解できなかった。
けど、一番目の子供だからか、仁はよく理解していて。
夏陽と冬陽にも、ちゃんと大切な意味が込められていた。だから、宝物の三つ子の名前だったの。

(無事でよかった。幸せで、伸び伸び育ってるのね)

会うのが楽しみで、声は出せないけれど。
再会した愛し子たちは、大きく、素敵に成長していた。

心優しく、ご両親の話をしてくれる悠陽。
話を、キラキラとした瞳で聞く、冬陽。
口が裂けても言えない、魂を分けた兄弟。

(ありがとうございます、神様……)

悲願だった。
生きている間に、もう一度、息子に会いたかった。
抱きしめることは叶わなかったが、いつか叶えば良いなと、秋乃は心から願った。

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