世界はそれを愛と呼ぶ



「…………んぅ……そうま……」

考え込んでいると、聞こえてきた声。
まだ眠そうな瞳。弧を描く唇。

「おはよう、沙耶」

「ん……」

身を寄せてくる彼女を抱き寄せて、愛しさを込めて、額にキスをする。

「─フフッ、」

沙耶はくすぐったそうに笑い、顔を上げて。

「……何か、良いことでもあったの?」

「ちょっとね」

「へぇ……聞いても良かったら、後で教えてね」

「うん。あとで、ゆっくりとした時に話すよ。朝から話すにはちょっと……俺もまだ少し、混乱してるから」

「……相馬が混乱するなんて、珍しいね?」

「そりゃしますよ。まだ18歳なので」

「フフフッ、そうだね」

沙耶はギューッと抱きついてくる。

……可愛い恋人が、可愛く甘えてくる。
それを可愛くて愛おしいと思うのは、正常。

「……怖くなかった?」

頭を撫でながら、聞いてみる。
相馬の頭に生えた角、生えた牙、変わった瞳の色……それら全ては、相馬が化け物と呼ばれた所以。
時に、相馬に人としての理性すらも奪い取る代物。

「ん〜?強いていえば、美しすぎて怖かったかも」

「………………ん?」

何を言われたのかわからず、思わず聞き返す。

「綺麗すぎて、美しすぎて怖いって言うじゃん?それに近い感情かな……私が触れるのは畏れ多い、みたいな」

「……」

「でも、そんな貴方を私が独り占めできるんだ〜なんて、仄暗い独占欲もあったの」

えへへ、と、照れたように笑う彼女をどうしてやろう。

「大丈夫。私、相馬のことがもっと好きになった」

「不調とかは?大丈夫か?」

「全然。元気だよ。逆に、ちょっと調子が良すぎるくらい」

沙耶はそう言いながら、起き上がって。

「気分転換に、体育とかだけでも出席しようかな。私の組は参加者少ないから、空いてる先生さえいれば見てもらえるし、単位貰えるかも」

「でも、既に成績優秀者だから、かなり免除対象だろ?通学しなくていいって、理事長が言うくらいだし……早めに卒業でもしたいのか?」

「ん〜そうだね。そもそも、私は1年遅れて入学したけど、家の教育のお陰で、2年から編入出来た。それでも、私は相馬と違って、まだあと1年ある。あまり、学校で時間を使いたくないんだ。友達だっていないし、相馬が、相馬たちがいてくれればもう、何も要らないし」

「でも、俺達だけじゃない、普通の友達と関係を持つのも、人生において楽しいかもよ?」

「んー、相馬は分かってくれると思うけど、私がどんなに頑張っても、そう振舞っても、黒橋の名は、家の名前は付き纏うの。本音か嘘か相手の心を見ながら振る舞うのは、もう疲れた。生きていくだけで精一杯。だから、今は相馬たちだけでいいや」

相馬をはじめとし、桜や光輝、千歳たちは、沙耶にお世辞や遜る理由がない。
何故なら、家格として、彼らが圧倒的に上だからだ。

柚香や大樹さん達、大人に囲まれて育ってきた沙耶にとって、真姫と関係を築けただけでも、かなり頑張った方なのだろう。
人を信じたくない、信じられない、信じてしまえば、もしもの事があった時、耐えられなくなるから。
─これはある意味、沙耶なりの自己防衛。

「……相馬は卒業したら、向こうに帰るの?」

少し泣きそうな顔で笑った沙耶の頭を徐に撫でると、沙耶が呟いた。

「帰らないよ。仕事のために向こうに帰ったりすることはあるだろうけど、基本的にはここで、沙耶のそばで、1年は過ごす。何より、向こうに長期で帰らなくちゃならないことがあっても連れていくよ。契約を結んだんだ。俺が耐えられない」

相馬がそう言うと、沙耶は安心したように息をついた。
まだまだ課題が残る中で、どこまでの人材を駆使し、全てを上手く終わらせるか……相馬はあちこちから届き始めたメールの通知を見ながら、沙耶の綺麗な髪を梳く。


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