世界はそれを愛と呼ぶ


「……私は、相馬のために何ができる?」

「ん?」

「皆、自分の場所で戦っていて。私のために動いてくれている人達も沢山いるのに、私は何もしなくていいの?」

沙耶の気持ちはわかる。
でも、突発的に発作を起こしてしまう彼女を無理させるほど、皆、彼女に無関心ではない。

この街で生きているものは全員、彼女を守るという意思で団結しているし、御園側で動いてくれている人々も、相馬がこれまで心配をかけてきすぎたせいか、『相馬の番である』という事実だけで、全てを投げ打って動いてくれている。

「守られることが、仕事らしい」

「……?」

「分からないし、納得出来ないよな。俺も、だけど」

「相馬も、なの?」

「ああ。だって、四季の家は凌さんや、里の奴らが動いてるし、パーティーの件だって双子が動いている。最近、気になっている企業の動きは、本社の人事部が中心的に動いてくれているし、この国の仄暗い事件系は、薫達が動いてんだ」

相馬も動こうとした。
希雨のことがあるし、大人しくなんてしていられない、と。すると、彼らに言われてしまった。

『上に立つ人間は、最後の決断を下すだけでいい。そして、もしもの際にその首で責任を取ってくれれば良いのです。それが、頭というものですよ』

─なんて言いながら、実際、そんなことになったら、身代わりになるようなお人好しな奴らばっかりであることも知ってるので、相馬はそういう不測の事態に陥らないよう、彼らに悟られない範囲で手を回している。

「……そう言われちゃ、何も出来ないね」

「そうなんだよ。しかも、俺の婚約者であるお前も同じ。だから、俺と一緒にいて?」

相馬がそういえば、彼女は笑う。
その笑顔にほっとしていると、鳴り響く電話。

「─はい」

「ありがとう」

沙耶が取って、手渡してくれる。
表示されている名前に驚く。

『─相馬、俺だ』

「久遠兄さん?どうした?」

電話に出たタイミングで、気配を消してベッドから離れようとする沙耶を抱き寄せ、寒くないようにブランケットを被せる。

『簡潔に説明すると、総一郎さんから、綺羽宛に手紙が届いた。所謂、現在の研究が行われている施設の位置や、その中に囚われているものに関する情報』

「……」

突然出てきた兄の名前に、また勝手なことを……と、少し腹が立ちつつ、続きを促す。

『総一郎さん曰く、希雨を救うには、四家の王、並びに朝霧家の人間が必要な可能性があるらしい』

「朝霧って……それって、相志のことだろ?」

かなりの無茶だ。行方が分からない。
父と一緒に出ていったきり、帰らないから。

「そんなことに必要ということは、直系血族ってことだ。そんなの、相志しかいない」

『そこは総一郎さんがどうにかするって書いてあって、とりあえず、俺達には夏の王を助けてこいと』

「……まさか、今、施設にいるのか」

『そのまさかだ』

「そんな指示は出してないが」

『怒られる…いや、立場が無くなることを覚悟の上で、綺羽も、柚琉も行くと言うんだ。華宮家当主も、御国家当主も了承し、俺はお目付け役』

「……」

相馬は頭が痛くなり、そのまま、沙耶の肩に頭を預ける。

『……だから、もしもの時はよろしくと伝えようと思って、最期に電話をしたんだよ』

「はあ?」

少し間を開けて、巫山戯た事を抜かす久遠。

『だって、俺が居なくなったら、希雨が悲しむ』

「帰ってくれば良いだろ」

『ん〜意外と大きくて、複雑な造りっぽくて』

「ふたりは」

『既に、中だよ。置いて行かれた。「希雨がいるんだから」って』

「正論じゃないか」

『そうだけど。……少し、疲れちゃった』

綺羽達のことも怒らなければならない。
─正直、常に冷静なあのふたりが、急にそんな行動をし、相馬に何も連絡しないあたり、何かおかしい。

「久遠兄さん」

『……ハハッ、別に死にたいわけじゃない。ただ、希雨が逝く時は、逝かせて欲しい。……止めないでくれ……』

「……」

『あいつのいない世界で、1秒たりとも生きていきたくないんだ』

震えた声。それは、兄さんの限界を知らせている。
自他共に認めるほど、仲良しで愛し合っていたふたり。
ある日突然、引き裂かれたんだ。
久遠兄さんの苦しみは、計り知れない。

相馬は腕の中の沙耶を抱き締める手に、力が籠ることも気づかないまま。


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