世界はそれを愛と呼ぶ


「……わかった。約束する。そして、今すぐ場所を送ってくれ」

『えっ?』

「約束して、もしもの時はその命を散らしてやる。希雨を救えないのは、当主の、俺の罪だ。責任は取るよ。だけど、信用出来ない奴が多い家の中で、大切な兄さんを容易に死なせてやる余裕は、俺にはないんだ」

久遠兄さんが、電話の向こうで息を呑む。

「……幼い頃、兄さんは俺を抱き締めてくれた。狂って、化け物の姿になっても。自分が怪我しても構わず、貴方は抱き締めて、笑いかけてくれた」

その時の傷が未だに、彼の背中には残っている。
大きな爪で傷つけられた、痛々しい傷跡。
何針も縫った大怪我を負って尚、兄さんは笑って。
『【お前は化け物じゃないよ】』と、頭を撫でてくれた。

「希雨は何がなんでも助けるよ。使えるものは何でも使って、朝霧相志を呼び戻す。その前に、そこへ俺も向かうから。兄さんは絶対、安全な場所にいて」

『いや、相馬、お前……』

「大丈夫。飛んでいくから」

返事を待たずに、相馬は電話を切った。
沙耶のお陰で軽い身体。
最速で移動するのに、今は丁度良いだろう。

「沙耶」

「なあに」

大人しく腕の中に収まっていた沙耶にも、既に話は通じているのだろう。
微笑みながら、上を見上げてくる彼女に。

「もしもの時、俺を落ち着かせてほしい」

「もしも?」

「うん。多分、人ではダメなんだ」

それだけで把握したらしい彼女は微笑んで。

「ラジャ」

と、敬礼のポーズを取る。

善は急げとふたりで準備をして、相馬は沙耶を抱え、気配を消して、晴れ渡る空へ飛び立った。

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