世界はそれを愛と呼ぶ
桜は半年の間、安静にしていた。薫は心配に心配を重ねておかしくなっていたから、桜とずっと静養していた。
そんな桜が、あまりにも心配する薫に言ったのだ。
『─薫、私ね、高校に通いたい。高校生として、薫と遊びたいの』
薫からしたら、家から出したくなかっただろう。
真綿で包むように、大切に大切にしていたから。
でも、薫からしたら、桜の願いが最優先事項だったから。
(だからこその、【決定事項】なんだろうが)
正直、この手続きをしたのは、雪さんだろう。
彼もまた、桜にめちゃくちゃ甘いし。千夏様を守ったということもあるだろうけど、罪悪感もあったみたいだ。
「……分かった、行くよ」
正直、巻き込んで欲しくない。家で仕事していたい。
だけど、多くの大人が絡んでそうなこれは、桜の願いの一言で片付けるには、何かきな臭い。
(それにもしかしたら、あの件についても─……)
姉の顔がパッと明るくなって、嬉しそう。
─そんなに、自分は人生が楽しくなさそうだっただろうか。
「これ、陽向伯父さんも絡んでるよね」
行き先の街を見るに、一番、この家の中では、陽向伯父さんが関係深い。何を考えているのかは分からないが、まぁ、息抜きだと思って行くしかないのだろう。
「ええ?陽向さんからは特に何も聞いてないけど……ああ、でも、桜を発見する手筈に至った子がいるはずだとは言っていたわ。桜は発見当時、殆ど光のない場所にいたらしいけど、その子は何でそんな所に……いいえ、そもそも、そんな場所がある街に転校なんて……やっぱり、いくら桜が望んだとはいえ、本当に良いのかしら」
自分で転校を進めながらも、よくよく考えたら、桜の古傷を抉ることになるかもしれない。
姉はそう呟いて、ため息をつく。
「─良いんじゃないか?この紙が出てくる時点で、桜が本当に望んでいるんだろうよ。じゃなかったら、雪さんや薫が許すはずがない」
桜がかなり強めに願わないと、桜の身を優先するあの人たちならば、勝手に目的地を変えることだってする。
幼なじみだし、昔から知ってるから、明言できる。
「...まぁ、とりあえず、天宮(アマミヤ)家に行ってくる」
あまりにも良いタイミングで、幼なじみ達からの集合写真と収集命令がスマホに届いたので、相馬は姉にそう微笑んで、幼なじみの天宮美月(アマミヤ ミツキ)の家に向かうことにした。