世界はそれを愛と呼ぶ



「……水樹、これ、どうしたの?」

「え?兄さんから送ってきたんだよ」

「相馬から……?」

「うん。パーティーの件、兄さんは忘れていないからね。ちゃんとこれで準備しておけって……」

兄は抜け目がない。
兄の好みは大体わかるし、それを元に沙耶のドレスは選べば良いと思っていたが……美月がいくつかピックアップしているみたいだから、見せてもらおう。

「これ、相馬はいつ送ってきたの?」

「一昨日の夜とかかな」

「それって、既に敵陣にいる時間帯じゃない?」

「うん。兄さんのことだから、ふと思い出したんじゃないかな」

兄のことだ。今更、驚くこともない。
何故なら、あの兄がその気にさえなれば、ひとりで国家転覆くらいは行える。

それでもそれを行わないのは、純粋にそういうことに興味が無いから。そして、人としてありたいと願う、兄さんの心のおかげ。

「─……沙耶に似合う、ドレス用意しなきゃね」

「うん。お願いね、美月」

兄さんの周囲には、昔から人がいた。
それが弟だったり、幼なじみだったり、私欲を持った大人だったり、何も知らない大人だったり、祖父母だったり、伯父夫妻だったり……けれど、その中の誰にも、兄は本音を漏らすことはなかったと思う。

いつだって微笑んで、いつだって、人間としての在り方の正しい道を模索していた。

本当は人に囲まれることが苦手で、いつだって、ひとりになる場所を探していた兄はようやっと、全てをさらけ出せる相手を見つけ、手に入れたのだ。

─その日々を、束の間になんてしてたまるものか。

「ドリンクはどうしようか?作戦も立てなきゃね」

「それに関しては、詳細を相馬に伝えてないんでしょう?」

「伝えてないよ〜」

「兄さんは多分、御園の恩恵を拝受しながら、我々の意志に背いた代償を払わせる……くらいしか、表向きは考えていないはずだよ」

「そうなの?沙耶の件を噛んでいるのは間違いないだろうし、徹底的に追い詰めるかと思ってた」

「俺も」

「馬鹿。んなことしたって、救われねぇだろ。─あいつが計画的にしても、意味がねぇんだ。向こう側の現在のお嬢は、相馬に夢見ているみたいだしな」

薫の言葉に、美月は目を瞬かせる。

「夢って……?」

「優しくて、望んだことはなんでも叶えてくれて、愛してくれて、そばにいてくれて、微笑んでくれて。自分の為だけに存在する、理想の王子様」

「……え?」

澪がついていけず、引いた顔をする。

< 304 / 308 >

この作品をシェア

pagetop