世界はそれを愛と呼ぶ
「……水樹、これ、どうしたの?」
「え?兄さんから送ってきたんだよ」
「相馬から……?」
「うん。パーティーの件、兄さんは忘れていないからね。ちゃんとこれで準備しておけって……」
兄は抜け目がない。
兄の好みは大体わかるし、それを元に沙耶のドレスは選べば良いと思っていたが……美月がいくつかピックアップしているみたいだから、見せてもらおう。
「これ、相馬はいつ送ってきたの?」
「一昨日の夜とかかな」
「それって、既に敵陣にいる時間帯じゃない?」
「うん。兄さんのことだから、ふと思い出したんじゃないかな」
兄のことだ。今更、驚くこともない。
何故なら、あの兄がその気にさえなれば、ひとりで国家転覆くらいは行える。
それでもそれを行わないのは、純粋にそういうことに興味が無いから。そして、人としてありたいと願う、兄さんの心のおかげ。
「─……沙耶に似合う、ドレス用意しなきゃね」
「うん。お願いね、美月」
兄さんの周囲には、昔から人がいた。
それが弟だったり、幼なじみだったり、私欲を持った大人だったり、何も知らない大人だったり、祖父母だったり、伯父夫妻だったり……けれど、その中の誰にも、兄は本音を漏らすことはなかったと思う。
いつだって微笑んで、いつだって、人間としての在り方の正しい道を模索していた。
本当は人に囲まれることが苦手で、いつだって、ひとりになる場所を探していた兄はようやっと、全てをさらけ出せる相手を見つけ、手に入れたのだ。
─その日々を、束の間になんてしてたまるものか。
「ドリンクはどうしようか?作戦も立てなきゃね」
「それに関しては、詳細を相馬に伝えてないんでしょう?」
「伝えてないよ〜」
「兄さんは多分、御園の恩恵を拝受しながら、我々の意志に背いた代償を払わせる……くらいしか、表向きは考えていないはずだよ」
「そうなの?沙耶の件を噛んでいるのは間違いないだろうし、徹底的に追い詰めるかと思ってた」
「俺も」
「馬鹿。んなことしたって、救われねぇだろ。─あいつが計画的にしても、意味がねぇんだ。向こう側の現在のお嬢は、相馬に夢見ているみたいだしな」
薫の言葉に、美月は目を瞬かせる。
「夢って……?」
「優しくて、望んだことはなんでも叶えてくれて、愛してくれて、そばにいてくれて、微笑んでくれて。自分の為だけに存在する、理想の王子様」
「……え?」
澪がついていけず、引いた顔をする。