世界はそれを愛と呼ぶ
「何故、平岡朝陽は……松山久貴は消されたのか。何故、そこまで沙耶に執着するのか。健斗さんの方のルーツが歪んでいるのは周知の通りだが、それはあくまで、歪み過ぎたが故、世間から外れただけだった。ならば、ユイラさんは?彼女はどうして、捨てられていたのか」
藤島ユイラ─改、黒橋ユイラは物心ついた時から、施設に住んでいた。施設で虐待を受け、命からがら抜け出した先では人形として買われ、尊厳などは全て踏みにじられ、涙を、感情を枯れ果たした。
ある日、可愛がってくれていた屋敷の同じお人形だった女性が目の前で殺されたことで、その女性の最期の言葉を守ろうと、彼女は屋敷を抜け出した。
追っ手から逃げ惑う中で、健斗さんと出逢い、紆余曲折を経て現在に繋がっている。
今でも苦手なものは多く、今にも消えてしまいそうなほど儚い女性だが、彼女が憂いを感じたものは全て、健斗さんが処分、消してしまうから、彼女は不安になる余地もない。
「健斗さんは、ユイラさんを人形とし、今の黒橋の街の人々を失意のどん底に陥れた地主を消している。その情報をお願いしたら、彼の秘書が用意してくれた。当時の記録全てが残っており、目を通したところ、街から連れ去られた女性は酷く陵辱などを受けた後、殺害され、一部の美しい女性はエンバーミング……白いドレスを着せられ、屋敷の一室に並べられていたという。念の為、警察をあたったところ、その資料も見つかった。異様な光景だったよ」
口元を抑えながら、顔色を悪くする薫。
多少のことじゃ動じない彼が、ここまでなる記録。
それはどれだけ重く、酷いものだったか。
「記載はされていなかったが、その地主は古くから、黒橋の街を管理していた一族であり、昔は黒田家から嫁を貰うなどの過去もあった。その一件から、地主の家になかった遺体は実験施設に運ばれたと予想される」
「黒田家って、あれだよね。すごく汚い事ばかりしてて、かなり前、それこそ、私達が産まれる前に無くなった家の名前」
「ああ。─沙耶を狙う、お嬢のはじまりの生家だ」
薫のその一言で、澪達の頭の中でも、線が繋がり、円となったのだろう。