世界はそれを愛と呼ぶ
「それで?夢で見た光景を辿ったら、彼女を見つけたと?」
「ん〜?正確には、不正の現場を見たって感じ?」
「不正?─あ、まさか、少し前の冬の家の横領事件は」
「そ、私がチクったの。当たり前でしょ?私達、御園家を欺くなんて1億年早いわ」
その事件は下っ端が切り捨てられ、終わったけど。
「……その時、こちらを品定めするような当主の顔を覚えている。今思えば、欲しかったんでしょうね。私のような人間が」
「どうして」
「だって、私、鬼と姫の能力を良いバランスで使える、珍しい存在じゃない?その上、精神干渉をはじめとする術が得意で、容姿も悪くない。寿命も普通より長いわ。実験動物としては、良い対象でしょう」
だから、海外を転々としていた、と、千華は言う。
自分を追う人間を撒くため、動き回る日々。
冬の家の使用人に成りすましたこともあるらしく、その生活の中で、仁知華を連れ出したらしい。
「この子の名前、元々は母親がつけた名前があるの。トモカ……知の華とかいた、素敵な名前が」
でもそれは、母親がつけた、両親からとった名前だった。
母親が最愛の父親の知宏(トモヒロ)と、自分の清華(セイカ)から名付けた名前だったと、千華は清華の遺した日記で知ったらしい。それを見た途端、この子からその名前を奪い取るのは正しくないけど、同時に危険だと考え、【仁知華】という名前を与えたらしい。
「私にできること、これくらいだったの。……幸せになって欲しかった。総一郎の番でも、その運命に逆らうのなら、それで良かった。そしたら、この子、服毒したの。さっき話していたでしょう?」
「ああ」
何事もないように、彼女は話していた。
それは、ただの強がりだった。
「─ねぇ、兄さん」
「ん?」
「この子を助け出して、暫くね、この子と暮らしていたの。総一郎も顔を出して、ふたりが惹かれていくのが分かってた。私は守りたかった。大人だから、この子の保護者だから。でも、この子は大人しく守られてくれなくて……真っ暗闇で、大勢の大人に好き勝手される恐怖って、どれほどかしらね……?」
千華の声は、手は震え、涙が溢れ出す。
「実験だと言うの……そんな恐ろしい……総一郎はその場の人間を全員、葬ったわ。私は止められなかった……」
人間としての道を歩ませたかったのに、歩ませることができなかった。総一郎がここを出ていってからの行動はよく知らないが、まともなことはしていないだろうと思っていた。それが案の定……だが、それを責める資格なんて、御園家の男である陽向にはない。
最愛を傷つけられたならば、それは贖わさせなければ。
実際、妻を傷つけられた時、陽向はどれだけの人間を、地獄へと突き落としたか。
─二度と、陽の目は浴びさせない。