世界はそれを愛と呼ぶ
「相馬お前、沙耶は……」
「俺の部屋で眠っています。強固な結界を張っていますし、水を取りに来ただけですから」
「今、仕事を何件かこなしたよな」
「終わらせられるときに終わらせないと。─千華さん、どこでもいいので、空いている部屋で、仁知華さんを休ませてあげてください。総一郎兄さんは連れ戻し次第、そこに閉じ込めましょう」
「閉じ込めって」
「そろそろ、向き合ってもらわないとね」
欠伸をしながら、微笑む相馬。
1週間ぶりに見る甥の顔は生き生きとしていて、幸せそう。
「─それより、お前の儀式の方は上手くいったのか」
「もちろんです。1週間ありましたし……まあ、前半の記憶は殆どありませんが」
「だろうな」
こいつが帰宅した時、この家の中がどれだけ大変なことになったことか。バタバタと免疫のない使用人は倒れていき、ガタガタと身体を、口を震わせ、歯を鳴らす。
圧倒的な強者を前にした、生物的本能による恐怖心。
それはまるでテロのように襲い掛かり、誰もが相馬の帰りをいちばん待っていただろう、沙耶を案じた。
(やりきったのか、あの子……)
流石、健斗さんの娘と言うべきか……詳細は二人だけのものだが、儀式が成功したのは間違いなくて。
「─おめでとう、相馬」
陽向がそう言って頭を撫でると、
「少し照れくさいですね」
と、相馬は笑いながら、近くにいた使用人にメモを渡した。
「……あれは?」
「え?さっき、複数の使用人がそれぞれ直面している困難を報告してくれたので、それぞれの対処法を書いた紙を渡したんですよ」
「あー……」
相馬はそう言って微笑んでいるが、あとで、その使用人たちは怒られる。
本来なら、自分の判断で考えられない場合、その所属する場所のトップが疑問点をまとめて、当主に提出する決まりだ。
勿論、莫大な仕事がある当主の負担を激減させるためだが……恐らく、あの使用人たちは若かったし、相馬にお近づきになりたいと願っているものも少なくは無いだろう。
そういう意味の問題を避ける為にも、必要な手順は設けられている。
相馬は気にしている素振りはないが、相馬の容姿や優しさは、平気で人を誑かす。
彼を守る為、周囲はいつもハラハラだ。
もっとも、相馬はそんな周囲の好意には鈍く、気付いても興味が無い。だから、そんなアピールは通用しない。