世界はそれを愛と呼ぶ

第2節 黒宮家

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「─さあ、諸君。お集まり頂き、ありがとう」

そう言って微笑むのは、重症だったはずの彼女。

「おい、千春が睨んでんぞ」

「あははは」

乾いた笑いを浮かべながら、車椅子でニッコリな彼女は。

「許してくれ、千春」

と、指先まで包帯で覆われた痛々しい姿も気にかけず、優美に微笑む。

「……俺はあと何回、お前までを失うかもしれない恐怖に耐えれば良い」

黒宮千春─そういう名前で活動し、男だと公言していたという彼女は地下牢で救い出されて以降、これまでのように病院を脱出しようとする気配はなく、珍しく大人しくしていたらしい。

「女なのに、夥しい傷まで残して」

「身体で、見えないから問題ない……なんて、もう言わないから。ありがとう。僕の代わりに、僕を大事にしてくれて……今日、千春に言いたいことがあるんだ」

この場に集まっているのは、この黒橋の街で警察の代わりのような存在である黒宮家当主と、その家の幹部四人─相馬達を含め、彼らを呼び出したのは、幹部のひとりのフリを数年間続けていた、彼女だが。

傍には櫂も付き添っていて、簡易的に健斗さんに聞いていた彼女のことを水樹と氷月に伝えると、『ますます、この街や沙耶さんに関して、気味悪さが際立ってきたね』と、目を細めた。

薫達は会合で駆け付けられないらしく、仕方が無いので、今日は相馬達三人のみで受講?する予定だったが、こんな場を知らなかったらしい幹部4人は、当主がポロッと漏らしてしまった情報を聞き付け、現れた。

その光景を見て、彼女は『後で話そうと思ったのに』と困り顔をしながらも、車椅子で強行突破講義をしようとしており、櫂は彼女が車椅子で移動しようとする度、その行為を抑え、代わりに押している。

その光景は意外だったのか、水樹と氷月はすぐに櫂の気持ちを察し、優しい目で見守ることになった現在。

いい加減、我慢の限界になったらしい本物の黒宮千春は、彼女に怒りを顕にしていた。


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