取引婚をした彼女は執着神主の穢れなき溺愛を知る
 ほがらかに笑う彼女を見るたび、熱心に勉強をしている彼女を見るたび、生まれた恋は濃く深くなって言った。
 話の断片から彼女の家が神社だとわかった。母はすでに亡いとかひとり娘で彼女が跡を継ごうとしているとか、そんなことも聞こえて来た。

 興味本位で神社を調べ、俄然、興味が湧いた。
 後継者が少なく、小規模神社は経営に行き詰っているという。伝統にとらわれがちな神社のそれらを新しくして問題を解決できたらどんなに面白いだろう。

 それまでは国家公務員なら将来が安泰だろう、と適当に考えていた。
 神職という未知の仕事をやってみたくなった。
 苦労が多いという話もネットでよく見かけたが、それ以上にやりがいがありそうだ。

 神社の世界を自分の手で変えられたら面白いに違いない。人が少ないならトップにもなりやすそうに見えた。若い頃特有の万能感のせいだろうか、これも野心と言うべきか。

 そうして、とすっかり恋に染まった心で思う。
 そうして、彼女と結婚して一緒に過ごしていけたら。

 そんな願望を持って神職の資格を取れる大学に行き、大藤神社に就職した。
 神職の会合には積極的に出かけ、直彦と面識を得た。

 そのあとは彼に気に入られるように心がけ、ようやく彼女に紹介されるに至った。
 我ながら執念深い、と苦笑する。
 それももう終わりだ。
 彼女も神社もなにもかも手に入れてやるなど、慢心が思わせた錯覚だったのだ。

 スマホが鳴り、彼はポケットから取り出した。
 千景が頼んだ調査会社からの連絡だった。
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