取引婚をした彼女は執着神主の穢れなき溺愛を知る
「ならば根古間さんにお貸しして返済にあてていただくまでです」
 男は舌打ちし、優維をぎろりとにらむ。優維はびくっと震えた。

「お嬢さんにはお付き合いしてる人はいないと聞いてたんですけどねえ」
「彼女に絡むのはやめてください」
 男は再び千景をねめつけが、彼は一歩も引くことなく微笑を浮かべて視線を受け止める。
 優維ははらはらと見守るが、やがて根負けしたのは男のほうだった。

「今日は帰りますがね、宮司さん、また来ますよ」
 ふん! と鼻を鳴らして男は肩をいからせて歩き去る。
 その背が見えなくなると、優維はようやくほっと息を吐いた。

「大丈夫?」
 気遣う声に、優維は千景を見た。
 微笑にやわらかく包まれ、それだけで緊張がほぐれていく。

「ありがとう、大丈夫」
 言ってから、優維は父を見た。
「お父さん、説明して」
「私にもお願いします」
 続けて千景が言う。

「……ああ」
 直彦はうなだれて頷いた。
 千景は待たせていたタクシーに料金を払ってから引き返して来た。
 優維は彼を茶の間に案内し、父と一緒にお茶とお茶菓子を用意してちゃぶ台に出す。

「これは参道商店街のよもぎ屋さんのお饅頭でね、すごく美味しいんですよ」
 直彦のことさら明るい声が空々しく響いた。
< 12 / 148 >

この作品をシェア

pagetop