取引婚をした彼女は執着神主の穢れなき溺愛を知る
 優維は驚いた。
 結婚を取引で考えたことはなかった。
「脅すようで悪いが」
 彼は歯切れ悪く前置きして続ける。

「君がそいつと結婚して神社を乗っ取られたら、お父さんは追い出されるだろう。ずっと神社一筋だったんだろう? ほかの神社で若い神職に下っ端としてこき使われる姿を見たいか? 俺は見たくない。お父さんのプライドも傷付くだろう。ほかの仕事、たとえば工場で働くのだとしてもそうだ」
 優維は言葉に詰まった。

 父ならばどこでも懸命に働くだろうが、言葉にしないだけで傷付くだろう。優維の前では弱音を吐かないだろうし、苦しみをどこで掃き出せばいいのだろう。そんなふうに二重に苦しむ父を見たくはない。
 優維だって見たこともない男と結婚などしたくない。ましてやヤクザの疑惑がある男なんて。

 だが、千景ならば多少は知っているし、人柄は父が保証している。彼自身にもメリットがあるという。
 優維の心が揺らぎ始める。

「俺は君を守りたい。君のお父さんもこの神社も守りたいんだ」
 思いやりと正義感に申し訳なさが募る。と同時に、彼ならばという思いがわいてくるのを抑えられない。
 真摯なまなざしで見つめられ、優維の胸は彼の瞳でいっぱいになる。

「……いいの?」
「ずっと考えてきた。つまりは俺の夢。君でないと叶えられない」
 優維はどきっとした。まるで告白されているかのようだ。

「君がどうしても嫌なら、借金の返済が完了した時点で離婚をしてもいい」
 優しさに心はさらにぐらりと傾く。ヤクザに神社を渡したくない。頭の良い彼なら神社の再興もたやすいかもしれない。
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