取引婚をした彼女は執着神主の穢れなき溺愛を知る
 ふと目をやった棚の上では、写真立ての中の母がいつも以上に笑っているように見える。
 父と母は恋愛結婚だったから、今の自分みたいな緊張はなかっただろうな、と思う。

 ふたりの寝室として一室が用意されているが、きっとずっとそれぞれの部屋で夜を過ごすのだろう。彼が欲しいのは神社であって自分ではないのだから。
 夜も更けた頃、優維は彼の部屋の襖に向かって声をかけた。

「千景くん、起きてる?」
「起きてるよ」
 返事がして、襖があいた。
 Tシャツにハーフパンツというラフな姿だった。

「私、そろそろ寝ようかと思って」
「そうか、じゃあ俺も」
 彼はそう言って部屋の電気を消し、部屋の外に出る。

「寝室、自由に使ってね」
「ありがとう」

「じゃあ私は戻るね」
「待て」
 驚いた声に止められて優維は振り返った。

「新婚なのに、別々に寝るつもりか?」
「え?」
 優維は驚いて彼を見る。

「驚くところか?」
 ずい、と彼が近付き、優維は思わず下がる。壁にぶつかった優維の両側に千景が手をつき、逃げ場がなくなる。
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