取引婚をした彼女は執着神主の穢れなき溺愛を知る
「なんか嬉しい……なんて不謹慎かな」
 言った直後、さらにぎゅっと抱きしめられる。

「それは俺への告白と受け取っていいのか?」
「こ、告白っていうか」
 好意を告げる以外のなにものでもなかった、と気が付いて優維は真っ赤になる。

「今度はあなたを嫉妬させてみたいな」
 千景は優維の顎をついと持ち上げ、見つめる。
 優維が目を閉じて彼の口づけを待ったとき。

 どんどん、と音がして優維と千景は慌てて離れた。
 直後、がらっと引き戸が開けられる。

「ヤクザが来たって聞いたが、大丈夫か?」
 息を切らした直彦が狩衣姿で社務所に入ってきた。地鎮祭から社に戻ってきてすぐ駆け付けたのだろう。

「はい、もう帰りました」
 千景が言い、優維は隣でコクコクと頷く。

「そうか」
 ほっとする直彦の後ろには心配そうな美穂子が立っていた。
 彼女が帰って来た父を呼んでくれたのか、とありがたく思ったが、タイミング、とも思う。
 そうして、キスされたかった自分が恥ずかしくなる。結婚しているのだから恥ずかしがる必要はないはずなのに。

「また来たりしないだろうな」
 不安のこもる直彦の声に、優維はどきっとした。なにも解決していないのに、千景とのキスを考えていた自分が情けなくなる。
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