取引婚をした彼女は執着神主の穢れなき溺愛を知る
「神社のあちこちにハートマークがありますから、縁結びの神社として売り出すのはいかがでしょう」
 ハート? と優維は首をかしげる。

「あれは猪目という魔除けです」
 千景の言葉で、切妻屋根の破風(はふ)につけられた懸魚(げぎょ)や扉の釘隠し、柱の角の金具に猪目があったのを思い出す。小さいころから猪目だと教えられていたので、第三者の視点でハートに見えるのは新鮮だった。

「猫神社なので猫をアピールしたいんですよ。保護猫譲渡会をやりましたが、まずまずの結果でした」
「なるほど。養蚕を守るために猫が重要だったと聞きましたが、絹製品をアピールすれば地元への貢献もできますね」

「地元貢献ははおいおいですね。まずは神社を盛り上げていきたいです。マスコットキャラクターを作るのはどうでしょう」
「いいですね」
 智香は出て来た内容をどんどんメモして話を進めていく。

「ごめん、やっぱり私は席をはずずね。夕食の準備しなくちゃ」
 優維は笑顔を心がけて言い、千景は、わかった、と返事をして智香と話を続ける。

 台所へ行った優維はため息をついた。
 千景と対等に話を進める智香はキラキラしていた。自分より何歩も先を行っているように見える。

 日々の仕事に追われて現状維持が精いっぱいの自分。
 一生懸命に過ごして来たつもりだ。
 だが、やはり差を感じてしまう。
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